デンマークから日本に帰国して一週間ほど経ちました。出発前は32℃前後だった最高気温が、帰国後は35℃を超える猛暑日の連続。デンマークの夏のカラッとした日差しがもたらす暑さと、日陰や朝晩の爽やかな涼しさが、とても恋しく感じます。
デンマーク旅行のそれからですが、初日にちょっとしたトラブルや体調不良はあったものの(→デンマーク旅行(1)海外一人旅のトラブル)、2日目以降は悪化することもなく、時間とお金の許す範囲内で一人旅を満喫することができました。これからデンマーク旅行のおすすめスポットや、印象に残った出来事などをレポートしていきたいと思います。
1. コペンハーゲンから「ルイジアナ近代美術館」へ
今回のデンマーク旅行で一番行きたかったスポットの一つ「ルイジアナ近代美術館(LOUISIANA MUSEUM OF MODERN ART)」に行ってきました。”Louisiana”(ルイジアナ)というのは美術館のある地名ではなく、元々地所の所有者であった貴族のAlexander Brun(1814-93)の3人の妻ににちなんで命名されています。それぞれが”Louise”(ルイーズ)と名付けられていたそうです。1855年に建てられた邸宅は、その役目を終えた後に美術館として改装され、1958年に開館。創設者のKnud W. Jensen(1916-2000)は、この名前を引き継ぐことを選択しました。
「ルイジアナ近代美術館」は、コペンハーゲンから35kmほど北のHumlebæk(フムレベック)という場所にあります。電車とバスを乗り継いで1時間10分ほど。
私は、前日に交通手段の検索サイト「Rejseplanen」で調べて出てきた最短ルートで行きました。まず、København H(コペンハーゲン中央駅)から電車でHellerup(ヘレルプ駅)へ。そして、Togbus(Replacement bus)というバスに乗り換えます。
これは、本来であれば電車一本でHumlebæk(フムレベック駅)まで行くことが出来るのですが、何らかの理由で期間中(6月29日〜8月12日まで)は代替バスによる乗り換えを行っているようでした。Hellerup(ヘレルプ駅)からバスに揺られること40分ほどで到着しました。
「ルイジアナ近代美術館」は、ご覧の通り海の近くにあります。地図右下のマイナスを何度か押して、ズームアウトしてみてください。スウェーデンがこんなに近いんです。なので、海の景色も見たいと思い、駅から美術館へと歩きながら散歩を楽しむことに。美術館の周辺は、たくさんの緑にあふれ、レンガ色や白色のかわいらしい家がポツリポツリと建ち並ぶ、のどかな田舎町でした。
近くには海を眺めることができるちょっとした公園もありました。人があまりないので、聴こえてくるのは波の音と、風が木の葉を揺らす音だけ。時間を忘れてくつろいでしまいます。コペンハーゲンで地元の人が集うような場所に行って、自分が日本人、アジア人であることの疎外感を味わったこともあったので、ここはツーリストではなくて一人の人間として迎え入れてくれているような気がして、心の底からリラックスできたのでした。
海岸まで降りてみると、恐らくデンマーク人と思われる方々が、思い思いに日光浴や海水浴を楽しんでいました。このときは空を突き抜けるような晴天で、最高気温は26℃ほど。気持ちの良い暑さですが、日差しはとても強く感じました。日向を散歩する場合、帽子とサングラスは必須です。少し明る過ぎたので、写真に上手く収めることができませんでしたが、対岸のスウェーデンも肉眼で見ることができました。
2.「ルイジアナ近代美術館」は普通の「美術館」ではない
「ルイジアナ近代美術館」は、良い意味で「美術館」という威厳を感じさせない場所でした。とにかく開放的で、自由な気持ちになれます。アートの「鑑賞者」というより、アートを発見して共生する「滞在者」という言葉の方が合っているのかもしれません。
まず、建物はこのような造りになっています。東西南北に「WING」と名付けられた展示スペースがあり、自由に行き来することができます。順路を示す矢印のようなサインはほとんどなく、私たち「滞在者」の行動は制限されません。(もちろん基本的なマナーは守ります)目的に向かってそこへ行くというよりも、気の向くままに歩いてみたり、立ち止まってみたりするのが良いかもしれません。
周辺散策と同じような気持ちで探検してみることに。こちらはデンマークの芸術家・Asger Jorn(1914-1973)の展示です。シンプルで温かみのある木材の梁と木枠の額縁に、力強いタッチで描かれた色とりどりの抽象画。この自然かつ見事なコントラストは、空間全体をデザインすることで生まれた賜物だなぁと感じました。
展示スペースを繋ぐ回廊にもアート作品が。建物全体が外の世界と繋がっています。また、所々に外に出られる扉があり、そこから自由に庭に出ることができます。また、「SCULPTURE PARK」と呼ばれる庭には、彫刻作品が多数ありました。
建物を設計したのは、デンマーク人建築家のJørgen Bo(1919-1999)とWilhlem Wohlert(1920-2007)。創設者のKnud W. Jensenが依頼したのですが、彼らの基本的な考え方は、“建築を自然環境と結び付けること”だったそうです。この回廊を歩いてみると、まさにその思想を体で感じることができるでしょう。
木材の使い方のセンスと、一つの作品として楽しめる外の景色が渾然一体となったお気に入りの空間。外光を生かしているので、時間帯や観る場所によって印象がガラリと変わります。どこか日本的な和のテイストを感じ、書道の作品や日本画も合うかもしれない、と感じました。
こちらは「LOUISIANA COLLECTION」の展示。色、形、テクスチャーをキーワードに、たくさんの作品が編集された空間でした。自由な発想でつくられた、迫力あふれる作品の数々を観ることができました。
美術館で最も愛されている作品の一つと言われる、草間彌生のインスタレーション「Gleaming Lights of the Souls」。壁と天井は鏡で覆われていて、床は反射用の水たまりになっています。天井からは100個のランプがぶら下がっていて、色が変化していきます。「輝く魂の光」というタイトルの通り、まるで呼吸を繰り返しているようなとても神秘的な空間でした。
この他にも、ここでは紹介しきれないほどたくさんの作品や景色に出会うことができました。観光となると時間が限られてしまいますが、半日を「ルイジアナ近代美術館」で過ごして残りの時間で別の場所に行くよりも、ぜひ贅沢に一日かけて滞在してみて欲しいです。飽きないですし、今まで美術館では疲れてしまうことも多かったのですが、ここではとっても癒されました。
3. ミュージアムカフェで過ごす至福のひととき
「滞在者」として展示スペース以外にも訪れるべきスポットが、ミュージアム内にあるカフェ「LOUISIANA CAFE」です。ここのカフェはとっても人気のようで、ピーク時には満席になっていました。
店内席は、デンマークデザインの巨匠アルネ・ヤコブセンがデザインしたカラフルなセブンチェアが用いられているなど、インテリアにもこだわりが感じられました。ですが、夏はやっぱりテラス席の方が人気です。日差しが強くてもなんのその。家族連れの方がとても多く、食事を終えた小さな子どもたちは、芝生の庭で元気に遊んでいます。
私が注文したのはこちらのビュッフェランチ(139DKK)。お値段はデンマーク価格で少しお高めですが、デンマークの家庭的なサラダがたくさん並んでいました。(間違えて、スープを入れるボウルにまでサラダを入れてしまいました)お腹がいっぱいになったので、おかわりはできなかったのですが、冷製スープも美味しそうでした。
飲み物は水以外に、バイオダイナミック・スパークリング・アップル・ラズベリー・ドリンク(35DKK)をいただいてみました。名前が長くて注文しづらいのが難点(笑)調べたところ、「AARSTIDERNE」というデンマークのメーカーの商品のようです。WEBサイトに目を通す限りだと、素材にこだわっていそうですね。ノンアルコールなのですが、スパークリングワインのような風味がありつつ、果実の甘さも味わえて、とっても美味しかったです。
上品で落ち着いているのに、カジュアルに楽しめる。『こんなミュージアムカフェが家の近くにあったら良いのにな』『一人でも良いけど、家族みんなで行ってみたいな』という理想が詰まった場所でした。
「ルイジアナ近代美術館」の紹介は以上です。いかがでしたでしょうか。今回紹介した建築や展示、カフェ以外にも、「CHILDREN’S WING」と呼ばれる子ども向けのワークショップなどを行っているスペースや、コンサートホール、オシャレなデザイン雑貨などを販売しているミュージアムショップなど、老若男女どなたでもその時間と空間を楽しむことができます。地元の人からも、世界中のツーリストからも、たくさんの人から愛されるとっておきの美術館。デンマークを訪れる際は、是非足を運んでみてください。
ルイジアナ近代美術館 LOUISIANA MUSEUM OF MODERN ART
住所:Gl. STRANDVEJ 13 3050 HUMLEBÆK
開館日:火〜金曜日(11〜22時)、土・日・祝日(11〜18時)
閉館日:月曜日
入館料:大人(18歳以上)125DKK、学生110DKK、子ども・乳幼児は無料
WEBサイト:https://www.louisiana.dk/
※無料Wi-Fiあり ※写真撮影可(フラッシュNG)