空気を読まないデザイン

台所のおと

嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著)がベストセラーとなり、アドラー心理学に注目が集まるようになったのは一昨年の2015年からでしょうか。私も当時その波にのり、勉強をはじめました。


そこで印象に残っている言葉の一つが、“人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである”です。
私自身、『人とのコミュニケーションが一番難しい』と思いながら過ごしてきたので、それは心にストンと落ちるものでした。

対顧客、対消費者など、ビジネスの場では『コミュニケーションをデザインする』ということが当たり前に行われていますが、普段の生活で生じる「コミュニケーション」を意識して「デザイン」している人は少ないのではないかと思います。
でも、確かにそれは存在している。

台所のおと』(幸田文著)という短編小説を読み、日常生活におけるコミュニケーションの面白さと奥深さ、一つのあり方を感じることができました。(読んでみたいと思ってもらえることを意識しつつ、)あらすじを下記にまとめてみました。

病気で寝込んでいる料理人・佐吉の楽しみは、妻・あきの「台所の音」を聞くこと。台所と佐吉の病床は障子一枚なので、音は通る環境だ。あきは静かな台所仕事をする女性だが、佐吉はそれを聞き分け、変化を察することができる。そして、夫が不治の病であることを知ったあきは、華やかな音をたてようと考える…

この物語のポイントは二つあります。一つ目は、物理的な「場のデザイン」です。
障子の良いところは、空間を完全に遮断するドアとは違い、音や陰影で気配を察することができるところ。家族であってもプライベートな空間が重視される現代社会において、障子のみで空間づくりをすることは難しいと思います。
ですが、物語にあるように、病床と別の部屋が障子で仕切られていれば、外の世界との繫がりを完全に遮ることはなくなり、病気の人の不安や孤独感が軽減されるだろうと思いました。

二つ目は、互いに「察するデザイン」です。
『台所のおと』では、夫婦が「音」を通して心情を察し合い、コミュニケーションをとります。また、音だけでなく、表情や言葉遣い、後ろ姿など、察することができる要素はさまざまに存在します。
そして、相手のことを思いやり、考え、行動する。これが「コミュニケーションデザイン」なのだろうと思います。

私は普段、どれだけ「察する」ことができているだろう。「察する」は、「空気を読む」とはちょっと違う。
「空気を読む」には少しネガティブなニュアンスがある。例えば、それを強制するようなシーンがある。「空気を読む」ことを相手に求める人は、結局自分のことしか考えていないのだ。

しかし、「察する」ことは相手に強制することも、されることもない。
想像力と思いやり、相手への敬意と信頼が必要な、クリエイティブでポジティブな行動。

なかなか難しいですが、無意識にできている人もいるのでしょう。(私はまだまだですが)
『コミュニケーションをデザインする』ことを、普段の暮らしから実践していきたいと思いました。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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