「シンプル」なだけじゃない、フィンランドデザインの魅力

フィンランドデザイン展

フィンランドは国土の約7割を森林に覆われ、18万以上の湖を抱く、まさに「森と湖の国」。
また、ムーミンの生みの親であり芸術家でもあったトーベ・ヤンソン(1914-2001)や、「Marimekko(マリメッコ)」でデザイナーとして活躍したマイヤ・イソラ(1927-2001)など、日本で「北欧デザイン」と聞いて真っ先に思い浮かべられることが多いであろう、代名詞的存在を輩出した国でもあります。


そんなフィンランドは今年(2017年)で独立100周年。メモリアルイヤーに開催中の「フィンランド・デザイン展」を観に、府中市美術館へ行ってきました。

1. フィンランドのデザインは、自然がいっぱい!

フィンランド語で「デザイナー」は、「形づくる人」という意味のようです。
「形のデザイン」と言えばやはり、「プロダクトデザイン」。そして、フィンランドには主に食器やキッチン用品で有名なデザインカンパニーの「ittala(イッタラ)」があります。
日本でもイッタラの製品はオンラインショッピングや直営店で買うことができますし、日の丸に似た「i」のロゴマークも、一度は見たことがあるという人が多いのではないでしょうか。

イッタラといえば、<Teema>や<Kartio>シリーズのシンプルかつ機能的なプレートやタンブラーが有名ですが、決して「シンプル」とは呼べないものもあるのです。それは、タピオ・ウィルカラ(1915-1985)がデザインした<Jäävuori(氷山)>、<Ultima Thule(世界の果て)>や、ティモ・サルパネヴァ(1926-2006)がデザインした<Finlandia(フィンランディア)>などです。
どれも有機的な線と形が特徴的で、展覧会で展示されていたプロダクトデザインの中でも、特に目を引く作品でした。共通点は「自然モチーフ」と「造形美」。
タピオ・ウィルカラは、ラップランドの湖畔の山小屋で長い時間を過ごしたため、豊かな自然からインスピレーションを受けた作品を数多く残しています。
また、ティモ・サルパネヴァは、彫刻家としても活動していたため、デザインに自然の芸術性を反映させるオリジナリティを見てとることができます。

2. ロシアから影響を受けた!?グラフィックデザイン

1917年、ロシア帝国でロシア革命が起こり、世界初の社会主義国家・ソビエト連邦が誕生。
そして同年の12月6日に、フィンランドは独立を果たしました。ロシア帝国からソ連へと歴史が動いているとき、「ロシア・アヴァンギャルド」と呼ばれる前衛芸術運動が活発化していきました。
当時の「グラフィックデザイン」は実験的要素が強く、また職業としての「グラフィックデザイナー」もほとんど確立していませんでしたが、戦争のためのプロパガンダポスターによって、大衆にその重要度が広く認識され、浸透していくことになるのです。

フィンランドはソ連と文化を近しくしていたため、ポスターデザイン文化も普及し、1930〜50年代に全盛期を迎えました。そんな時代にたくさんの作品を生み出したのが、現在のロシア領であり、かつてフィンランドの州であったヴィープリ生まれのエリック・ブルーン(1926-)です。
エリックブルーンフィンランド航空や飲料メーカーの<JAFFA>など、企業やブランドのポスターだけでなく、緻密な描写の動物のイラストが印象的な自然保護をテーマにしたポスターも手がけています。(展覧会でも多数の作品を観ることができました)

サーミ人が住まう極北の地・ラップランドで暮らしたタピオ・ウィルカラ、そしてユネスコ世界遺産指定地区であるヘルシンキのスオメンリンナで暮らすエリック・ブルーン。
スウェーデンやロシアに支配された厳しい歴史がありながら、フィンランドデザインから、フィンランド人としての「アイデンティティ」や素朴な「幸福感」を感じとることができるのは、やはり自然から授かるインスピレーションによるところが大きいのだろうと思います。

フィンランドにはまさに、“日常を幸せにする、デザインの知恵。”が息づいている。
まずは、日常の風景を彩っているものを見つめ直してみよう。
幸せはきっと、そこから生まれるのだ。

◆参考資料◆
北欧デザイン〈3〉テキスタイルとグラフィック
『BIRD8号 自然と遊ぶ、フィンランドの暮らし』

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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