人間の行動に寄り添うデザイン

デンマークデザイン

日本とデンマークの修好150周年事業の一環として、日本で初めて「デンマーク・デザイン」に特化した展覧会が開催されています。
展覧会は今回が“初めて”ではありますが、すでにデンマークのデザインは、家具やインテリア、テーブルウェアなど、日本でも好まれ、暮らしに取り入れている人も多くいます。
また、19世紀末の<ロイヤルコペンハーゲン>に日本の美術(ジャポニスム)から影響を受けてデザインされたものがあったり、木(自然素材)を扱う日本のものづくりの技術がフィン・ユールのデザインした家具に活かされていたりと、実はデンマークと日本のデザインには、共通する感性や美意識が存在します。


そんなデンマークのデザインを、展覧会で改めてじっくり鑑賞してみたところ、一言で表現するなら、人間の行動に寄り添うデザインだと感じました。それは、「革新(innovation)」ではなく、「再設計(redesign)」を意味します。
では、日々の暮らしを再設計(=改良)するために、人間のどのような行動に着目したのでしょうか。2種類に分けて考えてみました。

1. 「とどまる」ためのデザイン

デンマーク(北欧)の冬は、長く厳しいです。
そのため、家で過ごす時間が必然的に長くなるので、“その「とどまる」時間をいかにして心地よく、快適に過ごすか”ということを考え、知恵を絞ってきた歴史があります。そして、デンマーク・デザインが国際的に評価され、黄金期と呼ばれる1950-70年代の作品は、家具が中心です。
Arne JACOBSENArne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)1902-1971 左:スワンチェア 右:エッグチェア
建築家であり家具デザイナーでもあるヤコブセン。
写真の一番右に見えるのは、彼が設計した航空会社SASのホテル。建物だけでなく、日本でも有名な<エッグチェア>や<スワンチェア>などの家具、壁紙、照明、レストランで使うカトラリーに至るまで、ホテルのデザインをトータルで手がけました。
Finn JUHLFinn Juhl(フィン・ユール)1912-1989 左:FJ46 中央:チーフテンチェア 右:FD192
ユールもヤコブセンと同じく、建築家であり家具デザイナーです。
自身が設計した自邸「フィン・ユール邸」が有名で、“細部へのこだわり”と“全体のバランス”、どちらもデザインにとって大切な要素であるということが感じられます。
Finn JUHL展覧会でも「フィン・ユール邸」の空間を再現するような展示になっていました。
Hans WEGNERHans Wegner(ハンス・ウェグナー)1914-2007 中央:ラウンドチェア/ザ・チェア
家具職人でありデザイナーでもあったウェグナー。
アメリカの雑誌で<ザ・チェア(椅子の中の椅子)>と呼ばれた作品が、工業化が進む欧米諸国とは一線を画す、伝統的な手工業を大切にしたデンマークのオーガニックなデザインを、国際的に広めるきっかけにもなりました。

これらの作品を鑑賞していて感じたのが、デンマークの人々は「とどまる(=家の中で過ごす)」ことの中でも、特に「座る」ことに重点を置いている、ということです。
これらの椅子はどれも、機能性・デザイン性共に優れ、素材にもこだわっているため、とても高価です。にも関わらず、デンマークの一般的な家庭は、良い椅子を買うためにお金を貯めるんだとか。

その理由は、「ヒュッゲ(Hygge)」にあるのだろうと思います。
「ヒュッゲ」とは、一言では言い表せないのですが、デンマーク語で“居心地の良さ”や“快適さ”、“ぬくもり”などを意味する言葉です。
家の中にいる時間が長いからこそ、座ることにもこだわる。そして、素晴らしい椅子に腰を下ろし、ゆっくりと本を読んだり、コーヒーを飲んだり、家族団らんを楽しんだりすることは、とても“ヒュッゲな暮らし”と言えるでしょう。

展覧会の最後には、巨匠たちがデザインした椅子に座れるスペースがありました。実際に座って体感することで、デンマークデザインの良さに気付くことができますよ。

2. 「移動する」ためのデザイン

「とどまる」の反対は「移動する」、能動的に「使う」デザインです。
まず、家の外での移動について。デンマーク人は、自転車による移動を好みます。
自転車5年前にコペンハーゲンを訪れたとき、人々の自転車利用率の高さに驚きました。
現在も、自家用車から自転車への移行が活発に推進されていて、自転車専用の道路が整備されたり、さまざまなタイプのデザインが開発されたりしているそう。CO2排出削減や、運動不足の解消など、環境面でも健康面でも良い影響が広がっているようです。

次に、家の中での移動について。
日常的に使う道具についても、“デンマークらしさ”が息づいています。
テーブルウェア日本でも大人気の<DANSK(ダンスク社)>のテーブルウェア。
シンプルかつ機能的でありながら、北欧ならではの温かみが感じられます。
実はダンスク社の創業者は、デンマークのデザインに影響を受けたアメリカ人で、これらはアメリカ人の中産階級向けに開発された製品だそう。“大量生産でもいいものを。”というメッセージが伝わってきました。

写真を掲載したのは、展覧会のほんの一部。他にもたくさんの椅子やテーブル、プロダクト、ポスターなどが展示されていました。
ジャズ好きとして個人的に最も興奮したのが、2015年の「オーフス・ジャズ・フェスティバス」のポスター。ジャズピアニストのThelonious Monk(セロニアス・モンク)のイラストが大胆に描かれた、とってもクールなデザインでした。

魅力たっぷりの「デンマーク・デザイン」展。
世界に羽ばたくその理由や、日本のデザインにも通じる感性、「ヒュッゲ」とは何か、について考え、感じることができます。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。


日本・デンマーク国交樹立150周年記念 デンマーク・デザイン
会期:2017年11月23日(木・祝)~12月27日(水)
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
WEBサイト:http://www.sjnk-museum.org/program/current/5062.html

※掲載写真は、美術館より特別に撮影の許可をいただいています。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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