アートで言葉は磨けるか

チャペック兄弟

油彩、水彩、インク、鉛筆、パステル、リノカット。さまざまな遊びを試すかのような豊かな表現手法と、自由な発想でつくりあげられた作品の数々は、まるで純粋な驚きと感動に満ちあふれた“子どもの世界”のようでした。


渋谷区立松濤美術館で開催中の『チャペック兄弟と子どもの世界 20世紀はじめ、チェコのマルチアーティスト』を観に行ってきました。松濤美術館は、JR渋谷駅から徒歩15分ほどの立地でありながら、駅周辺の喧噪を感じさせない閑静な高級住宅街の一画に佇んでいます。石造りの外観が印象的な建物の中に入ると、ゆったりとした空気が流れているので、日々の忙しさを感じることなくアートを楽しむことができるでしょう。

20世紀のはじめに活躍したチェコのチャペック兄弟。兄のヨゼフは1912年にパリでキュビスムに出会い、画家として活躍。また、弟のカレルは文筆家として、新聞記事や旅行記、戯曲などを発表しました。ヨゼフはカレルの著書の装丁を手がけたことでも知られ、童話『長い長いお医者さんの話』(著:カレル・チャペック 挿絵:ヨゼフ・チャペック)など、子どもをテーマにした作品を残しています。

たくさんの展示の中で最も惹かれたのが、ヨゼフ・チャペックのおとぎ話の挿絵です。『こいぬとこねこは愉快な仲間』(1929年)や、『長い長いお医者さんの話』に収録されている『郵便屋さんの話』(1931年)など。それらの作品は、インクと鉛筆で描かれたものが多く、白黒の世界です。ですが、単純で伸びやかな線で描かれた物語の世界を見ていると、彩りや登場人物の動きを感じることができました。

その面白さを言葉では上手く説明できないのですが、アートには見る人の想像力をかきたてる力があると思いました。それは、チャペック兄弟が「ハイ・アート(高尚芸術)」と「ロウ・アート(大衆芸術)」を区別せず、“挿絵にも芸術的な価値がある”ということを体現していたからなのかもしれません。

展覧会の中で、生涯大切にしたいと思える言葉に出会いました。カレル・チャペックが1931年に残したものです。

子どもが幼少期に身につけた言葉の数が少なければ、その後の人生も多くを知ることはないだろう。これが、私にとって児童文学の問題だ。子どもたちに、できる限り多くの言葉を、考えを、表現できる力を与えること—
いいかい、言葉は、考えであると同時に、心のすべての基礎をなすものなんだ。

言葉を磨くにはさまざまな方法があるけれど、やっぱり一番はたくさんの本を読むこと。大人になってからも読書はできるけれど、やっぱり若ければ若い方が良いと思います。では、絵本はどうでしょう。今回の展示を見て、大人になってもおとぎ話の挿絵に心が動かされる瞬間を感じました 。「子ども向け」に描かれた絵本は、ときに退屈で子供だましですが、「子どもの視点」で描かれた絵本は、きっといつの時代も色褪せることはないでしょう。


チャペック兄弟と子どもの世界 20世紀はじめ、チェコのマルチアーティスト
会期:2018年4月7日(土)〜2018年5月27日(日)
会場:渋谷区立松濤美術館

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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