目の中のわたしたち

MUNCH

そこには無数の目があった。
動かない目。そして、その目を見つめながら瞬きを繰り返す目。
そのどれもが物を言わない。でも、すべてが呼吸をしているように感じた。


11月の初め、東京都美術館の「ムンク展—共鳴する魂の叫び」を訪れた。エドバルド・ムンク(1863-1944)は、人間の不安を表現した絵画『叫び』で世界的に知られるノルウェーの画家だ。両親と姉、弟、妹2人の7人家族だったが、5歳のときに母親を、14歳のときに姉を、そして26歳のときに軍医だった父親を亡くしている。そのため「生と死」は、ムンクの絵画と切っても切り離せないテーマだ。

私は、ムンクの絵画は登場人物の「目」が面白いと思った。なぜだろうと考えたが、それは生涯に渡って、たくさんの自画像を描いたからではないだろうか。

展覧会で一番最初に入る展示室は、「ムンクとは誰か」をテーマに集められた、自画像の協奏曲(コンチェルト)だった。ソリストが奏でる音色に耳を傾けるかのごとく、絵の中のムンクをじっと見つめる。生の演奏に一つとして同じものがないように、どの彼のどの瞳も違うリズムで呼吸をし、それぞれが異なる想いを秘めていた。

『目の中の目』(1899-1900)という作品がある。
ムンク「目の中の目」(出典:https://arthive.com/edvardmunch/works/269047~Eye_to_eye
木の下で見つめ合う二人の男女。身体は自然の中に溶け、青白い顔が浮かび上がって見える。じとっとした男性の視線は、女性の目に吸い寄せられ、体内に捕われているかのようだ。女性の長い髪の毛が腕のように伸び、さらに男性を結び付けようとしている。

少し怖かった。でも、とても惹かれた。見事に自分自身も何者かに捕われたのだ。いろんは解釈が出来ると思うが、この作品が単純なラブロマンスでないことは確かだ。「生と死」が織り成す夢のような現実。魂の交響曲(シンフォニー)がそこにあった。

ムンクと言えば、有名なのは『叫び』だ。彼は複数の『叫び』を描いたり、同じ構図の作品(『絶望』『叫び』『不安』)を描いたりするなど、「連作」を意識して制作をした。そして、帯状の建築装飾「フリーズ」を念頭に、1915年に「生命のフリーズ」と名付けた。ムンクは以下のような言葉を残している。

私は、それらの絵を並べてみて、数点のものが内容の点で関連があるのを感じた。それらのものだけを一緒に並べるとある響きがこだまし、一枚ずつ見たときとはまったく異なっていた。それはひとつの交響曲となっていたのである。

そこには無数の目があった。
それぞれが異なる想いを秘めている。すべてが唯一無二の存在だ。
でも、それだけではなかった。
目の中に映る私たちを見ていると、大きな自然の、宇宙の、魂の一部の中にいるような、包括した一つの穏やかな感情が流れていった。


ムンク展—共鳴する魂の叫び
会期:2018年10月27日(土)→2019年1月20日(日)
開館時間:9:30〜17:30 ※入館は閉館の30分前まで
※詳細は東京都美術館のWEBサイトをご覧ください。

※参考書籍「美術手帖10月号増刊エドヴァルド・ムンク”叫びの画家”の正体」

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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