言葉にできなくて

Lost In Translation

新しいカメラのレンズを手に入れたので、好きでも嫌いでもない街で、つまらない写真を撮っています。


レンズはSIGMAの「30mm F1.4 DC HSM」。念願の単焦点レンズを手に入れて、相棒の「Nikon D5600」にセットしました。単焦点レンズについては、Nikonのレンズレッスンに詳しく載っているのですが、一言で表現するなら、「絞り値(F値)」が小さい(=よりたくさんの光をレンズに取り込める)ものが多いといったところでしょうか。私が購入したレンズは「開放絞り値(開放F値)」が「1.4」なので、かなり小さいと言えると思います。
東京タワーたまたま用事があったので、夜の東京タワーを撮影してみました。写真の加工はしていません。単焦点レンズの良さを活かした撮り方はまだまだ模索中ですが、今まで使っていたズームレンズと比べて、明るさはすごく実感しました。東京タワーに特別な感情はありませんが、歩きながら写真を撮っていると、映画『ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)』が見たくなりました。

2003年に製作されたソフィア・コッポラ監督・脚本の映画。第76回アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞しています。CM撮影のために来日した初老のハリウッドスターのボブと、ビルと同じホテルに滞在する若妻のシャーロットによる、東京を舞台にした儚くも淡いラブストーリーです。
ロスト・イン・トランスレーションストーリーはありがちと言えばありがちかもしれませんが、この作品の面白さは、外国人目線で見る奇妙な街「トーキョー」と、よそ者が味わう「孤独感」が描かれているところです。よそ者というのは、彼らが単純に外国人だからというだけでなく、ボブが奥さんとの結婚生活に倦怠感を抱えていたり、シャーロットが新婚であるのにも関わらず、カメラマンの仕事で忙しい夫に構ってもらえなかったり、そういった心に空いた隙間も意味します。

そして、シャーロットは大学で哲学を学びましたが、卒業後は仕事につかず結婚し、やることがなく悩みを抱えています。そんな彼女とボブが交わした言葉の中で、大好きなものがあります。

シャーロット「何をやればいいのか分からないの。物書きになろうとしたけど、私の文章は最悪だし、写真を撮ろうとしても、面白くもない写真ばかり。女の子は誰でも写真に夢中になるの。自分の脚とか、くだらない写真ばかり撮る」

ボブ「自分自身や望みが分かってくれば、余計なことに振り回されなくなるよ。今に道が見つかるから。書き続けろ」

彼女は、東京に来たくて来た訳ではなく、夫に追いてきただけなので、東京にさほど興味も思い入れもありません。なので、余計「書くことが出来ない」ですし、「言葉にならない」のです。この移ろいにすごく共感してしまいました。私も今は東京に住んでいますが、好きでも嫌いでもなんでもない街です。だから、自分の撮った東京の写真は、つまらないなぁと感じます。でも、ボブが言うように、大切なのは自分自身。自発的に興味を持って動けば、きっと道は拓けると思うのです。

シャーロットは、映画の終盤で京都を訪れます。これはきっと自発的な行動です。もしかしたら、彼女はそこで何かを見つけられたのかもしれません。そんな前向きな意思を、映像の描写から感じました。

「Lost in Translation」は、直訳すると「翻訳出来ない」ということですが、私は「言葉に出来ない」と解釈しました。小さな不安や不満を抱えながらも、生きていく日々。そんな言葉にならない感情を、少しの間でも誰かと分かち合うことが出来たなら、きっと前に進めるのだろう。

『もしかしたら、次は面白い写真が撮れるかもしれない』
好きでも嫌いでもないこの街で、また写真を撮ってみます。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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