レコードショップでレコードを探しているとき、ただのショッピングではなく、旅をしているような気持ちになることがある。
手にした一枚の中古レコードに詰まっているのは、きっと音楽だけじゃない。
曲が誕生したとき、録音されたとき、リリースされたとき、顔も名前も知らない誰かが最初に針を落としたとき…微かな記憶の音色を感じながら、旅をするのだろう。
大好きなジャズ・ピアニストのDuke Jordan(デューク・ジョーダン)。彼を知ったのは、「Flight to Denmark」というアルバムでした。ちょうどデンマークに興味を持ち始めた頃、何かの雑誌で紹介されていた円盤。「デンマークへ飛ぶ」というストレートなタイトルに惹かれ、当時の『デンマークに行ってみたい』という自分自身の思いを重ねました。このアルバムとの出会いが、旅へのきっかけを与えてくれたんだと思います。(→「デンマーク一人旅」のレポートはこちら)
タイトルだけでなく、収録されている曲はどれも自分好みの曲ばかり。ジャズのジャンルとか、詳しいことはそんなによく分からないけれど、Duke Jordanが手がけた「Flight to Denmark」「No Problem」そして「Glad I Met Pat」という曲が大好きになりました。スタンダードナンバー以外で初めて、『今、自分が好きな音楽・ジャズはこれだ!』と気付かせてもらえた曲たち。「Glad I Met Pat」は特に、愛と優しさに包まれるような演奏です。毎日ずっと聴いていた時期があったので、今ではアドリブの違いも少し聞き分けられるようになりました。
『いつかこのアルバムを、レコードで聴いてみたい』というささやかな夢を、ずっと心に抱いていましたが、数年を経て、やっとレコードショップで探し始めました。でも、結局欲しいものを手に入れるだけじゃ、つまらないんですよね。そこで旅が終わってしまうようで。なので私は、まだ知らない新しいDuke Jordanとの出会いを楽しむことにしました!
「Flight to Denmark」が録音されたのが、1973年のデンマーク、コペンハーゲン。翌年「SteepleChase」からリリースされました。「SteepleChase」は、1972年に当時コペンハーゲン大学の学生だったNils Winther(ニルス・ウィンター)によって設立されたレーベルです。
Duke Jordanが「SteepleChase」で初めてリリースしたのが「Flight to Denmark」ですが、その後も名盤を世に送り出しているんですね。その一つが、今回購入した「Thinking of You」です。まず、ジャケットに一目惚れしてしまいました。Duke Jordanの横顔と、陰影が強調された黒と白のデザイン。すごくカッコ良くて、手にした瞬間『このレコードと旅をしたい!』と思いました。
収録日は1979年。「Flight to Denmark」から6年後のコペンハーゲン。レーベルは同じく「SteepleChase」で、1982年にリリース。ベースはデンマーク人のNiels-Henning Ørsted Pedersen(ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン)、ドラムはアメリカ人のBilly Hart(ビリー・ハート)、トリオでの演奏です。
SIDE ONE
THE FUZZ 4:46
THINKING OF YOU 5:47
ANYTHING CAN HAPPEN 6:32
THE PEANUT BAR 4:00SIDE TWO
FOXIE CAKES 5:27
LIGHT FOOT 5:41
MY QUEEN IS HOME TO STAY 4:21
DEACON’S BLUES 5:11
どの曲もオススメなのですが、私が好きなのは「The Peanut Bar」と「Foxie Cakes」です。ピーナッツバーにケーキという、スイーツを使ったタイトルが印象的なのですが、一度聴いたら耳に残るようなフレーズと演奏です。特に「The Peanut Bar」は、自然に身体が揺れてしまうような楽しさと心地よさがあります。アルバム「Flight to Denmark」では、ジャズでありながらクラシック音楽の要素を取り入れているような印象を受けたのですが、「Thinking of You」は、私が好きだと感じたDuke Jordanらしさはありながら、成熟した遊び心のようなものを感じる作品だと思いました。
成熟した都市に漂う心のゆとり。まさにデンマークを訪れたときの感覚だ。もしかしたらDuke Jordanも、同じような気持ちを抱いたのかもしれない。そう考えると、なんだか嬉しくなった。