夜明け前のサムシング

BACKBEAT

金曜の深夜に見る映画が好きです。夜更かしの罪悪感もないので、映画の物語や映像と共に、心行くまで夜の海に浸れる感じがします。


先日見た映画『BACKBEAT』は、そんな日のためにあるような作品でした。1994年にイギリスで製作された、“ビートルズになり損ねた男”の映画です。

1960年のイギリス・リヴァプール。舞台は、ボーカルのジョン・レノン、ギターのポール・マッカートニー、同じくギターのジョージ・ハリスン、ドラムのピート・ベストらのバンドに、ジョンの親友スチュアート・サトクリフがベーシストとして加入するところから始まります。

5人組はドイツ・ハンブルグへ巡業に訪れます。レーパーバーン街(Reeperbahn)で毎晩演奏に明け暮れます。ちなみにレーパーバーン街は、現在は観光地としても有名になっていて、「ビートルズ広場(Beatles-Platz)」もあるそうです。
reeperbahn(出典:https://www.hamburg.de/reeperbahn/

『Good Golly Miss Molly』『Carol』『I Remember You』『Twenty Flight Rock』『 Long Tall Sally』『Rock And Roll Music』など、たくさんの演奏シーンが描かれます。歌って、演奏して、ロックしまくる。この時代のビートルズのハードワークと熱量は、後にリリースされた楽曲『A Hard Day’s Night』の歌詞を彷彿とさせます。あくまで個人の感想ですが、本当に毎晩ハードで、でもやり切ったという充実感があって、とにかく“生きてる”という感じだったんだろうなと思います。

そんな中、アストリッド・キルヒヘルというフォトグラファーの女性と出会い、スチュアートとアストリッドは恋に落ちます。スチュアートはベーシストですが、アーティストでもありました。才能溢れる写真家と画家の恋、ロマンチックですね。

アストリッドはスチュアートの写真や、5人(ビートルズの前身バンド)の写真を撮ります。映画には、『Road Runner』の曲に合わせて彼女がフィルムカメラで撮影するシーンがあるのですが、これがめちゃくちゃお茶目で、でもスタイリッシュで、とにかくカッコいいんです!そして、暗室で好きな人の写真を印画紙に現像するアストリッドが美しくて、うっとりしてしまいました。

スチュアートも自身のアートの制作に情熱を燃やします。映画では、彼の制作風景が人々の熱狂とダンスに合わせて、激情的に表現されているシーンがあります。それは、ビートルズのロックの熱量とは違う描かれ方をしていました。魂をすり減らしているような、己の内にある何かと闘っているような、そんな危うさを感じました。

そして、スチュアートはビートルズを脱退し、画家の道へと進んでいきます。これから確実にトップスターの階段を駆け上がっていくであろう、夜明け前のビートルズ。そんなバンドを辞めるなんて、“ビートルズになり損ねた男”、そんな風に揶揄されるかもしれない。それでも、自分自身が望む夢、アストリッドと笑って暮らせる未来のために…

しかし、1962年スチュアートは病に倒れます。21年という短くも濃く、人々を魅了し、影響を与えた人生であり、正真正銘のアーティストだったのだろうと思います。彼のアート作品は、死後高い評価を受け、現在も展覧会などが行われているようです。いつか機会があれば観に行ってみたいと思っています。

映画『BACKBEAT』は日本で舞台化され、今月末から6月まで、東京・兵庫・愛知・神奈川で上演されます。私は東京公演を観に行く予定です。スチュアート・サトクリフは戸塚祥太さん、アストリッドは夏子さんが演じるようですが、どんな舞台になるのかとても楽しみです。舞台の感想は、また夜が明けた後に。


舞台「BACKBEAT(バックビート)」
キャスト:戸塚祥太、加藤和樹、辰巳雄大、JUON、上口耕平、夏子、鍛治直人、田村良太、西川大貴、工藤広夢、鈴木壮麻、尾藤イサオ

【作】イアン・ソフトリー/スティーヴン・ジェフリーズ
【翻訳・演出】石丸さち子
【音楽】森大輔

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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