未経験からIT系の企業に転職して約半年。プログラミングの面白さにハマりつつあります。またそれと同時に、「ITの仕事に必要なことって、プログラミングスキルだけじゃないんだな」と感じています。そして、その中の一つが「デザイン・シンキング」であると考えています。
1. 「デジタル社会」を生きていく
今から約7年前、新卒で入社したのは「デジタル」とは真逆の会社でした。MacでAdobeのソフトを使ってはいましたが、作っているのは紙の雑誌。デスクの両サイドには、常に堆い紙の山がありました。仕事は楽しかったのですが、自分が手を動かす「労力」に対しての「対価」が圧倒的に少なかったです。また、電子書籍の登場によって、紙の雑誌の売り上げが落ち始めた時期だったので、漠然とした焦りや不安も感じていました。
その後、自分の「やりたいこと」が出来て、「得意なこと」や「今までの経験」を活かせそうな仕事を求めて何度か転職しましたが、その度に「デジタル化」の壁にぶつかっていました。「本当はもっと効率の良い方法があるけれども、それに走ったら自分の仕事の存在意義は残るのだろうか・・・」これはもうITを学ぶしかない、と思いました。めまぐるしい世の中の変化に対応出来るようになりたかったのです。
そして、一年前くらいからプログラミングの勉強を少しずつ始め、気付いたら転職することが決まり、今に至ります。まだまだ新米のプログラマですし、かつては「デジタル」に苦手意識やライバル意識がありましたが、今は「楽しい!」「もっと学びたい!」と感じることの方が多く、自分自身の変化を感じています。
2. そもそも「デジタル」って何だろう?
転職を考えていた時期にIT業界について調べていたのですが、その時「SAP」に出会いました。SAPはドイツに本社を構えるの欧州最大級のソフトウェアメーカーで、日本法人の「SAPジャパン」もあります。統合基幹業務システムの「SAP ERP」が特に有名です。「SAP エンジニア」で検索すると、SAPシステムの導入や運用等を担当するエンジニアの仕事や求人も多数出てきます。
そんな「SAPジャパン」が監修している書籍『Why Digital Matters? なぜデジタルなのか』には、“デジタルの本質を理解して使いこなす”ヒントがたくさん詰まっていました。
まず、目から鱗だったのが、“「デジタル」の対語は「アナログ」ではなく「フィジカル」である”ということです。そもそも「デジタル」と「アナログ」の違いが詳しくは分かっていないですが、「デジタル時計」と「アナログ時計」を比較すれば一目瞭然ですね。デジタル時計は、時間という目に見えないものを数字で区切っているのに対し、アナログ時計は、時間の流れの連続性を針の動きで表しています。では、「フィジカル」とは何なのか。
ここで言う「フィジカル」とは、物理的なモノを指す。すべての自然物をはじめ、われわれが日ごろ目にしているほとんどの物体はフィジカルだ。もちろん、我々人間自体もフィジカルである。
それに対比して、電子化された情報、すなわち実体がなく、目に見えない情報のことを「デジタル」と呼ぶ。コンピューターは一般に「電子の動き」を利用して情報を処理するが、コンピューターが処理を行う際に情報を「0」と「1」の電気信号に変換し、0と1の組み合わせで認識する技術がデジタルだ。
これを読んで、「デジタルを扱うことが出来れば、自分の身体を使って、動いたり働いたりしなくても良くなるんだな」と思いました。だからと言って、フィジカルなモノやコトがゼロにはならないと思います。それに、私はフィジカルな紙の本や雑誌が今も大好きなので、なくなっては困ります。でも、肉体労働を減らして、その分頭を使ってアイディアを考える時間を増やすことが出来るようになるのは、理想的な未来の姿に思えます。少なくとも自分にとってはそれが理想です。
3. 「デジタルの5大特徴」を学ぶ
本書では、「デジタルの5大特徴(Five forces of Digital)」について書かれていました。簡潔にまとめて紹介したいと思います。
①差分コストゼロ
デジタル→初期費用はかかるが、初期投資が終わった後のランニングコストは非常に低い
フィジカル→何をするにも、ほぼ必ずコストが発生する
②無制限
デジタル→コンピューターの能力が足りなくて実現出来ないものはほぼない
フィジカル→劣化する、また、処理能力に限界がある
③時差ゼロ(リアルタイム)
デジタル→時差ゼロを前提にしてサービスを組み立てられる
フィジカル→タイムラグを考慮する必要がある
④記録・分析・予測
デジタル→過去の履歴情報のすべてを詳細に蓄積可能、また、それを元に将来を予測することが出来る
フィジカル→膨大な情報を正確に記録し、分析し、予測することは不可能
⑤パーソナライズ
デジタル→「記録・分析・予測」を元に顧客一人一人を識別し、それぞれに対してサービスをパーソナライズ出来る
フィジカル→「記録・分析・予測」を使ったパーソナライズは不可能
デジタルの特徴とメリットについて、理解することが出来たのではないかと思います。(詳しい内容や事例については、書籍に書かれているので、ご興味のある方はご覧ください)「デジタル」について知れば知るほど、まるで宇宙のような、無限の広がりを感じるのですが、デジタルも決して完璧ではないと思います。なので、フィジカルの持ち味や良さも活かしながら、これからの仕事について考えていきたいです。
4. 「デザイン・シンキング」はどう役立つ?
冒頭に、「ITの仕事に必要なことって、プログラミングスキルだけじゃないんだな」と述べました。それはなぜかと言うと、プログラミングは一番最後に行う、言わば末端の仕事だからです。決して簡単ではないですし、プログラミングだけでも勉強しなければいけないことがたくさんある奥の深い仕事ですが、それでもほんの一部に過ぎないのです。
技術を使ってモノを作る前段階には、「デジタルの力で社会をもっと良くしたい」という想いや、「もっとこうすれば良くなるのに」と言う現状への不満が存在します。そして、それらを実現したり解決したりするのに役立つのが「デザイン・シンキング」というマインドセット(考え方)だと考えています。
本書では「デザイン・シンキング」を取り入れた企業の事例がいくつか載っているのですが、ゼネラル・エレクトリック(GE)の小児病棟向けMRIの開発ストーリーが、とても興味深かったです。簡単に説明すると、「病院が抱える課題(=患者の子供たちに大人しくMRI検査を受けて欲しい)」を解決するために、GEが「MRIの機能自体を改善する」のではなく、「MRI検査の体験をデザインした」のです。
具体的には、MRI検査を「冒険物語」に仕立てて、MRI本体を海賊船や宇宙船に見立ててペイントしたり、子供の患者用のコスチュームも海賊や宇宙服のようなものを用意したそうです。これによってMRI検査は、子供たちにとって「恐怖体験」から「冒険旅行」となり、病院の課題を解決することが出来たのです。
デザインとは、それがモノであれコトであれ、課題を解決するための手段のことであり、「良いデザイン」とは「課題をよりよく解決するアウトプット」を指す
一度でもデザインを勉強したことがある方なら、上記と同じようなことは見聞きしたことがあると思います。でも、「デザイン」は見た目や機能のことだと誤解している方も多いですよね。私は学生時代から何度も言われたので、「はいはい、分かった分かった」と思うのですが、「分かってる分かってる」とはならないんです。課題をきちんと把握して、プロトタイプを作って、試して、失敗して、また作ってを繰り返して、最終的に解決したと納得できる結果を出すって、デザインって本当に奥が深くて難しいです。(でも、やっぱり大好き)
IT業界で仕事をしていても、「デザイン」は常に意識していたいですし、活用していきたいと思っています。
ここでは、顧客の課題の良し悪しについては、言及していません。私は、顧客の課題が必ずしも「良いもの」ではないと思っています。
社会全体にとって、個人にとって、など色々ありますが、一つの課題を解決しても、「全てが良くなった」訳ではないのです。