ロラン島と暮らしのデザイン

ロラン島

デンマーク・ロラン島。今、一番行ってみたい場所のうちの一つです。
何か観光をしたいというよりは、この島の人々の“自然エネルギーに対しての考え方と実践方法”に感銘を受けたからです。
“自分たちの欲する未来を自分たちで選び取る”ことの意味と素晴らしさについて、考えていきたいと思います。

1. デンマーク・ロラン島と風力発電

ロラン島に関しては、主に『ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100%自然エネルギーの島』という本で学びました。著者はロラン島在住のジャーナリスト、ニールセン北村朋子さんです。

ロラン島は、かつて造船業などの重工業で栄えたものの、世界的な不況に陥ったことで企業が撤退。巨額な赤字と高い失業率で一時は停滞しましたが、環境エネルギー産業への転換をきっかけに復興し、現在は風力発電を中心としたグリーン・エネルギーの生産地として、都市に自然エネルギーを供給しているそうです。書籍では、主にその歴史と自治体や企業の取り組み、そして、人々がどんな声を上げてどのように立ち上がってきたのかについて描かれています。

海に囲まれ、海抜最高地点が25メートルという平坦な島であるため、風がよく通るという特徴があるそうです。その特徴は、風力発電の普及と現在の供給に大いに役に立っていることと思います。海抜が低いと日本なら津波の心配をしてしまいますが、日本のような大地震が起こらないということも大きなポイントであると推察されます。

ロラン島へは、首都のコペンハーゲン中央駅(København H)から、電車で約2時間ほどでアクセス出来ます。中心部のマリボへは、DSB(デンマーク国鉄)のニュクビン駅(Nykøbing F)行きに乗り、ニュクビン駅でナクスコウ駅(Nakskov)行きに乗り換えて、マリボ駅(Maribo)で下車します。調べたところ、片道176DKK(日本円で約2800円)でした。

また、現在デンマークのロラン島とドイツのフェーマルン島を結ぶ沈埋トンネル「フェーマルン・ベルトトンネル」が建設されていて、2024年に完成する予定だそうです。

そんなロラン島は、どのようにして「自然エネルギーの島」と言われるまでになったのでしょうか。そこには、デンマークが原子力発電を放棄した歴史がありました。

2. 原子力発電を放棄したデンマーク

1973年の第一次オイルショックをきっかけに、デンマーク国内では原子力発電所の建設案が浮上しました。しかし、原発建設に不安を抱える市民による活動が立ち上がります。「反原発」というと、一般的にはデモ活動を想像ますが、少し異なるものだったようです。書籍には、1976年から活動を始めたベンテ・マイラー氏の言葉が述べられています。

私たちは始めから『反原発』を掲げて活動していた訳ではないんです。原発について当時は分からないことだらけでしたから。最初の3年間は情報収集の期間と捉え、安全性経済性地域に与える影響使用済み核燃料の処理方法など、まずは疑問点を整理し、それについての情報を国内外から集めて、『原発とは何か』を広く情報提供することに専念しました。そして、政府には最低でも3年間は原子力発電開始の決定を待ってほしい、とモラトリアムの期間を要求したのです。

原発推進派と反対派で最初から対立するのではなく、「原発について共に学び合い、議論を活発に行う」というのが彼らの信念であり活動だったようです。また、風力発電の祖、デンマークのエジソンと言われるポール・ラクール氏が原発建設計画に反対するために風力発電機を建設し、たくさんのボランティアが建設に携わるなど、議論だけでなく実質的な「行動の輪」も広がっていきました。

そしてついに、その活動の意義と有効性を認めたデンマーク政府は、1985年に「原子力エネルギーの選択的放棄」を議決したのです。チェルノブイリ原発事故が起きたのは、その翌年(1986年)のことでした。

では、“化石燃料の代わりに、原発ではなく、何からエネルギーを得る”のか。ロラン島内では、1980年代後半から風力発電パークが続々と建設されるようになり、原発建設予定地が風力発電パークになるなど、再生可能エネルギーの主力ソースとして、風力発電が推進されてきました。

デンマークの電気料金は日本より約5割程高く、約3分の2が税金だそうですが、その税金は「再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー利用の効率化」のためにも使われているそうです。

3. 日本とデンマークのエネルギー政策

これほどまでに人々の暮らしと健康、自然環境について考えているデンマークのエネルギー政策とは、一体どのようなものなのでしょうか。

2018年6月、デンマーク議会は全ての現政党の支持を得て、エネルギー協定に署名しました。この合意により、デンマークは2030年までに消費電力の50〜100%を再生可能エネルギーで賄えるようになり、また2050年までには、化石燃料に依存しない「低炭素社会」に変えるという目標に向けて、順調に進んでいるようです。

対して、エネルギー問題に対して遅れをとっている日本は、どのような政策を打ち出しているのでしょうか。経済産業省の資源エネルギー省によると、「安全性」を大前提として、2030年までに、現在9%程度のエネルギー自給率を25%まで高め、温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減することなどを目標に掲げているようです。
資源エネルギー庁(出典:資源エネルギー庁

上記のグラフを見ていただくと、2030年度の電源構成を把握できます。2017年と比べると、再生可能エネルギーは6〜8%ほど増え、石炭・石油・天然ガスの割合が26%減っていますが、その分原子力が19%ほど増えていることが分かります。(天然ガスは石炭・石油に比べてCO2の排出量は少ないですが、日本は輸入に頼っているため、エネルギー自給率の向上には繋がりません。)「安全性」を前提にしている以上、「原発の安全性」についても議論をしていく必要があるでしょう。

4. 日本の未来と暮らしを考える

ここまでの話を踏まえると、「なぜ日本はデンマークと同じようには出来ないのだろう」と考えてしまいますが、日本の人口は約1億2600万人、デンマークの人口は約580万人と、日本はデンマークよりはるかに人口が多いので、個人的には多少痛み(負担)を伴っても、人々と地球の健康と未来のためにも、再生可能エネルギーの割合の高い社会を目指していくべきなのではないかと考えていますが、現実的には、デンマークのように足並みを揃えてエネルギーの問題に取り組むことは、容易ではないと思います。

そんな中、最近とても興味深いニュースを目にしました。それは、現在秋田県で洋上風力発電のプロジェクトが進行しているというものです。“2019年4月に施行された洋上新法「再エネ海域利用法」によって、海域の大半を占める「一般海域」の利用期間が、従来は自治体の条例で数年だったのが、最大30年間”と定められました。これによって、事業者は海域を30年間占有でき、安心して風力発電事業の計画を進めることが出来るようになったそうです。

ただ、風力発電事業を進めるに当たっても、一筋縄にはいきません。騒音の問題が発生するか、景観の変化など地域社会への影響があるか、自然環境への悪影響がないかどうかなど、慎重に進めていく必要があるでしょう。

都会に暮らす人たちも、こういった再生可能エネルギーに関するプロジェクトや、地方で生産されているエネルギーについて、自分ごととして興味を持って考えていけたら良いのではないかと思います。2016年4月に日本は「電力の小売全面自由化」が定められ、“太陽光、風力、水力、地熱など、再生可能エネルギーを中心に発電を行う会社から、自ら選んで電気を購入することが可能になった”のですから。

5. ロラン島から学ぶ、暮らしのデザイン

『ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100%自然エネルギーの島』を読んで、最も心に残った言葉があります。ロラン島は個人や市民グループが所有する「マイ風車」も多数普及しているのですが、ロラン島で最初に個人で風車のオーナーになった、クラウス・クリステンセン氏の言葉です。

ロラン島でも、デンマーク全体でも、昔から小さな町ごとに穀物を粉に挽くための風車がある光景が普通だった。風で風車がまわる景色を、僕らは心底好きなのかもしれないね。

ロラン島の「エコな暮らし」は、誰かに強制されたものでも、与えられたものをただ享受しているだけでもなく、彼らが自ら学び、考え、実践し、人々に根付いてきたというとても意義のあるものです。だからこそ、ロラン島を始めデンマークの人々は、地域を愛する心が生まれ、幸福度が高いと言われるのでしょう。「暮らしをデザインする」とは、まさにこのことなのではないかと思いました。


【参考文献】
New Danish energy agreement secured: 50 percent of Denmark’s energy needs to be met by renewable energy in 2030
秋田の海に風車が並ぶ日 これからの洋上風力発電ビジネスに向けて
電力の小売全面自由化って何?


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amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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