クリエイティブに生きるための「人生の教科書」

ファンタジア

偉大なデザイナーはたくさんいる。
しかし、偉大なデザインの先生は、ブルーノ・ムナーリだけかもしれない。

ブルーノ・ムナーリの『ファンタジア』の帯には、工業デザイナー・深澤直人氏による言葉が記されています。
この本はまさに、デザイナーの教科書です。ですが、決してデザイナーのためだけのものではありません。子どもの指導書としても活用できますし、“クリエイティブに生きる”ための「人生の教科書」にもなり得るのです。
その理由はただひとつ。この本が、“すべての人間は「ファンタジア」「発明」「創造力」「想像力」の能力を持っている”ということを教えてくれるからです。

1. ファンタジア(Fantasia)ってなんだろう?

Fantasia」とはイタリア語で、「空想」を意味します。ブルーノ・ムナーリは、さらにそれを深く掘り下げて、下記のように述べています。

(ファンタジアは、)新しいことを考えださせる人間の能力である。まったく架空のもの、新しいもの、これまでになかったものを自由に考えていい。その考えが本当に新しいかどうか確認せねば、なんて心配しなくていい。それはファンタジアの領分ではない。(中略)ファンタジアに恵まれた人とは、絶対的に新しいことを考えだす人ではなく、その人にとって新しいことを考えだす人のことだ。

ファンタジアの産物は、考えたことと知っているものとの関係から生まれる。当然ながら知らないものと知らないものとでは関係を築くことはできないし、知っているものと知らないものとでも関係は築けない。(中略)つまり、ファンタジアの豊かさは、その人の築いた関係に比例する。その人がきわめて限定的な文化の中にいるなら、壮大なファンタジアはもてず、いまある手段、すでに知っている手段をすでに利用せざるをえない。

ファンタジアの産物において一番イメージしやすいものが、料理ではないかと思います。
冷蔵庫にある豚肉と玉ねぎとじゃがいもを使って、新しくて美味しい煮物料理をつくろうと思ったとき、もし過去にそれらの材料を使ったものを食べたり、自分でつくったりしたことがなかった場合、調理して一品を生み出す(=料理)といった関係を築くことはできないでしょう。

出来上がったものが例え肉じゃがであっても、自分にとってそれが新しいアイディアである(肉じゃがについてよく知らず、食べたことがない場合)なら、自信を持っていい。
『私のファンタジアはすばらしい!』『私はクリエイティブに生きている!』と。

しかし、それを「発明」として世の中に発表する場合に限り、“絶対的な新しさ”が必要となります。

ときどきテレビやネットのニュースなどで、デザイナーやアーティストがパクリだのなんだのと騒がれて叩かれることがあります。確かに発明としてはダメだったのかもしれませんが、それらの誹謗中傷の中には、その人ファンタジアまでも否定するような発言があり、不快に感じることがあります。
人のファンタジアをバカにしてはいけません。そのような時間があるのなら、新しいことを学び、発見をし、関係をつくり、自分のファンタジアを磨きたいものだと感じます。

2. 「創造力」と「想像力」の違いとは?

抽象的で少し難しいのですが、頭の中でイメージしながら考えてみましょう。まずは、「創造力」から。

(創造力とは、)ファンタジアと発明の両方を多角的な方法で活用するものである。デザインは企画設計をする手段であり、創造力はデザインの分野で活用される。デザインはファンタジアのごとく自由で、発明のごとく精密であるにも関わらず、ひとつの問題のあらゆる側面をも内包する手段である。

(ファンタジアと発明を利用する方法である)創造力は、機敏で柔軟な知性を必要とする。つまり、いかなる種類の先入観からも解放された精神、どんな場合にも自分のためになることなら何でも学びとろうとする精神、より適切な意見に出会ったならば自分の意見を修正できるような精神を必要とするのである。
したがって、創造力のある個人とは、絶え間なく進化しつづけるのであり、その創造力の可能性は、あらゆる分野において、絶えず新しい知識を取り入れ、そして知識を広げ続けることから生まれる。

言葉のすべてに蛍光ペンで色を塗りたいくらい、その通りだなぁと思います。そして、これを読んで『自分は創造力が足りないかもしれない』と感じる人もいるのではないでしょうか。私はまだまだ全然ですね。でも、これからです。

また、『子どもの方が創造力が豊かだ』と考える人もいるでしょう。しかしそう感じるのは、子どもにとっては日常のすべてがファンタジアの連続であるためです。
「食べる」「聞く(聴く)」「話す」「読む」「書く」など、大人になった今では当たり前にできること(正確には当たり前ではなく、これも恵まれたファンタジアの産物)が、子どもにとっては大いなる冒険なのです。

次に、「想像力」について。こちらは具体的な職業をイメージすることができます。

(想像力は)ファンタジア、発明、創造力がこれまで存在しなかった何かを生み出すのに対し、想像力はすでに存在していても今この瞬間にないものをイメージする力である。想像力から生まれたものが必ずしもクリエイティブであるとはかぎらない。

想像力とは視覚化の手段であり、ファンタジア、発明、創造力によって考えだされたことを目に見えるようにする手段である。(中略)なかには想像力を欠いた人もいる。その証拠にこういった人のためにファンタジア、想像力、発明によって考えだされたものを視覚化するプロがいる。

それは例えば、デッサンをするデザイナーや、模型をつくるモデラーなどです。
しかし、自分はプロではない(なれない)からといって、ただちに諦める必要はありません。デッサンも模型づくりもある意味訓練なので、必要性があり、やる気と根気さえあれば、おそらく誰しもが身に付けることができるのです。

「創造」も「想像」もどちらも得意であればすばらしいですが、どちらか一方に偏っていたり、そのどちらにも自信がなかったり、人間はいろいろです。(ですが、本来は万人に備わっており、鍛えられる能力なので、すべては思い込みと、勉強したか否かによる結果なんですけどね)
なかでも、老若男女問わず誰にとっても役に立ち、なおかつ人生をよりクリエイティブなものに変えることができる能力は「創造力」だろうと思います。そして、それの糧となる「ファンタジア」。
もしそれらの能力に自信がないと感じたときは、ぜひこの本を手にとってみてください。たくさんの図版と実例も載っているので、“新しいことを自由に考える”ファンタジアのヒントになるはずです。
そしてきっと、たくさんの勇気をもらうでしょう。


深澤直人(デザイナー)書評:ブルーノ・ムナーリ 著『ファンタジア』
ブルーノ・ムナーリ『木をかこう』:大人も子供も楽しめる絵本

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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