はじめましてのフィン・ユール

フィン・ユール

2018年1月から3か月間制作に取り組んできたリトルプレスが、先日校了しました。
(リトルプレスってなに?という方は、ぜひこちらをご覧ください→「リトルプレスのつくり方」)
テーマは「デンマークと日本」で、A5サイズの24ページ。その中で最もページ数を割いているのが、フィン・ユールの椅子を日本で製造している山形県・朝日相扶製作所のインタビュー記事です。

今回は、リトルプレスをつくる際にも参考にさせていただいた、フィン・ユールに関するおすすめの本や、記事のタイトルにもなった「本物の価値」について考えることについて、少し語ってみたいと思います。

フィン・ユールを知る

デンマーク・コペンハーゲンに生まれ、王立芸術アカデミーで学び、建築家のヴィルヘルム・ラウリッツエンのもとで10年働いた後に独立したフィン・ユール。独学で家具デザインを学び、椅子を中心とした優れた家具を多数制作し、国際的な成功を収めました。

そんなフィン・ユールの家具の美しい写真と、さまざまな視点で綴られたコラムを楽しめるのが、平凡社から出版されているフィン・ユールの世界 北欧デザインの巨匠(著者:家具デザイナー・椅子研究家の織田憲嗣氏)という本です。建築家としても活躍したフィン・ユールならではの、家具製作の既成概念にとらわれない「構造」や「素材の組み合わせ方」、「色」、「ディテール」、そして、使用者の視点に立ったアイデアあふれる「機能的メカニズム」。魅力がたっぷり詰まった一冊です。

この本には、北欧デザインの第一人者として知られ、武蔵野美術大学名誉教授の島崎信さんの寄稿文が掲載されているのですが、その内容が実際にフィン・ユールに会ったときのことについて描かれており、とても興味深いものとなっています。

フィン・ユールとは何度かお会いする機会があったが、彼の建築、デザインに関する関心と知識の幅広さには、しばしば驚かされた。そして音楽、美術、歴史などにも深い見識を示し、ヨーロッパの教養人というのはこういう人のことを言うのだろうかと、親しみの中にも尊敬の念がたびたび湧き上がった。
(中略)
デザインとは、それを生むデザイナーの人格、人柄と教養の表出に他ならないと思うが、そういう視点に立った時、今の時代に忘れ去られた生活デザインの本質は、フィン・ユール自身とその作品群にこそ見出すことができると、私は信じている。

「人格」や「人柄」など、「デザイン」とは一見関係のなさそうな部分において讃えられているフィン・ユール。「デザイン」というものが単なるテクニックではないことを、改めて教えてくれました。

価値について考える

「価値のあるものを買って長く使う」という考え方が好きです。
それは、高校時代のある経験が由来しています。服を買うため洋服屋さんに行き、店員さんにおすすめされたコート。試着してみて似合うと言われた言葉を信じ、自分ではなにが良いのかも分からずに買ってしまったのですが、結局一度も着ることがなくクローゼットに眠らせることになり、とても後悔したことです。

それ以来、『自分が本当に気に入ったものを買おう』と心に決め、今は洋服でも雑貨でも身の回りのものは、なるべくずっとそばに置いておきたいと思えるものを選び、大事に使っています。(それでも百発百中という訳では全然なく、不要になったり寿命を向かえて手放してしまうこともあります。また、本や雑誌のたぐいは、読んだ後捨てることが必ずしも悪とは思えなかったりもします)
北欧のライフスタイルやデザインにも、そういった価値観を感じられることが多く、私が惹かれている理由の一つです。

ここで疑問となってくるのが、「価値」って一体なんだろう?ということです。
絶対的な答えを知っている訳でもなんでもないのですが、リトルプレスでは、インタービューを通して学び、たどり着いた答えについて書いています。そして、いろんな人に「価値」についてたずねてみることは、今後自分がなにかを決断するとき、一つの判断材料になるだろう、ということを感じました。

「TABROOM」という家具・インテリアのポータルサイトに、島崎信さんのインタビュー記事が掲載されていたのですが、「価値」について以下のように述べられていました。

(価値は「値段」や「ブランド」だけではないという話から)
何を、どこで、どうして、買うのか。その買い方が問題なんです。それをしっかり考えて過ごせば、徐々に愛着のあるものに囲まれた生活になってくるはずです。後悔しないために物を見る目を自分で養おうという思いを持ってほしいのです。

あのね、僕は「断捨離」なんてするもんじゃないと思っているんです。

お金をかけて自分が買ったものを捨てる、それって過去の自分の判断を踏みにじるということと同じなのです。そんなことしなくてもよい生活をしたいものですね。もっと自分の判断を大事にしたらと思うんです。

インターネットショッピングが発達し、欲しいものは検索してすぐに買える時代。その利便性は享受しつつも、自分の五感や思考を使って価値を判断するという本質的な部分は、これから先も持ち続けていきたいと思いました。

リトルプレスに関する情報は、PUBLICATIONページや、「リトルプレスとデザイン」の投稿でアップしていきます。よろしければぜひご覧ください。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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