夏はまだ終わったばかりなのに、早くも今年の夏に“戻りたい”
7月のデンマーク旅行。何かを成した訳でも、
旅行記はまだもう少し続くのですが、今回はそんな“戻りたい夏”
5月の初夏のある日、『ブルーノ・ムナーリ展』を観に、初めて逗子・
海岸のすぐそばにある美術館。
でも、そんなことを言っておきながら、私は海より山の方が好きです。
『海水浴と山登りどっちがしたい?』と聞かれたら、絶対に『
ただ、海の側にある美術館は、特別な場所だと思うのです。
デンマーク旅行で訪れた「ルイジアナ近代美術館」も、
作品を鑑賞しながら、時々現れる窓や扉の外で、
その時ふと、『今この瞬間は、
展示されている作品も、海を渡って各国に巡回するように、
そして先日、久しぶりに「神奈川県立近代美術館」へ行きました。
開催中の『アルヴァ・アアルト展』が見たかったのはもちろんですが、“
新宿駅から湘南新宿ラインに揺られて逗子駅へ。
そう言えば、「ルイジアナ近代美術館」
海側の座席に座り、車窓を流れる景色に思いを馳せます。
もう季節は秋。肌寒さも感じるようになってきましたが、
北欧の短い夏、でも長いバケーションがある夏は、パリッとした明るさと幸福感に包まれています。
今年で生誕120周年を迎えるフィンランドの建築家・アアルト(Alvar Aalto)の回顧展『アルヴァ・アアルト――もうひとつの自然』に、そんな夏を過ごすために建てられた家の展示がありました。“戻りたい夏”を想い、とても心惹かれました。
それは「アアルトの夏の家(実験住宅)」です。1952〜54年に、フィンランドのムーラッツァロ島に建てられたサマーハウス。外壁の赤煉瓦はすべて同じに積まれておらず、アアルトが実験的な試みを家全体に施したことが一目で分かります。不揃いなようで、でも絶妙なバランス感覚とセンスによってつくられた家は、味わい深いアート作品のようにも見えました。「実験住宅」というその名の通り、住まい全体が研究室でありアトリエでもあったのだろうと思います。
そしてアーティスティックな一面だけでなく、アアルトはこの家を通して“デザイン・ディティール”への飽くなき探究心を体現していたそう。それは、“直接手で触れるものに対するきめ細やかな配慮”。豊富な素材とシンプルな形。特にドアハンドルは、建物や使われる場所によって、適切な素材を選択し、デザインしていたそうです。
自由に、自在に、実験的に、クリエイティビティを遺憾なく発揮できる場所。それが“夏の家”であり、“戻りたい夏”の中にあるんだなぁと思いました。でも、今の自分はどうでしょう。賃貸アパートの一室に住まい、壁に穴の一つも開けられないとは、なんと息苦しいこと。あの夏の日、美術館から海を見て、『どこへでも行けるんだ』と思ったのに、結局まだどこへも行けていないような、切ない気持ちになりました。
暮らしたいのは、あの夏のデンマーク。
そして、「アアルト夏の家」のような、“もうひとつの自然”と交わるクリエイティブな空間。
そんな夏に住みたい。そんな夏を生きたいのです。
1953年、「夏の家(実験住宅)」を建設中のアルヴァ・アアルトの言葉
建築の構造上の要素、そこから論理的に導かれた形、そして経験的知識、それらがまじめに遊びや芸術と呼ぶことのできるものによって色付けられて初めて、私たちは正しい方向に進んでいくのだろう