デンマーク旅行(5)クイーン・オブ・ソウルに憧れて

Copenhagen Jazz Festival

『ソウルの女王、Aretha Franklin(アレサ・フランクリン)が76歳で亡くなった。』
そのニュースはアメリカから瞬時に拡散され、世界中が哀悼の声に包まれました。
私はとにかく信じられない気持ちでいっぱいで、スマートフォンに映るその文字を、ただ目で追うことしか出来ませんでした。
『だって、まだ彼女に「会った」ばかりだし、彼女の「歌声」をつい最近聴いたばかりだから…』
2018年8月16日のことでした。


デンマーク旅行中の7月11日、私は「コペンハーゲン・ジャズ・フェスティバルで、アレサ・フランクリンの歌声を聴きました。正確には、彼女本人ではありません。ですが、そのシンガーから溢れ出る情熱は、ただアレサ・フランクリンを歌っているだけのシンガーではない。“一人の人間を超えている”と感じました。
Camille Sledge(出典:http://javamagaz.com/?p=371
彼女の名前は、Camille Sledge(カミール・スレッジ)。伝説のグループ「Sister Sledge」のメンバーDebbie Sledgeの娘。とにかくカッコ良くて、一目惚れをしてしまった女性。

その日私はルイジアナ近代美術館を訪れた後、コペンハーゲン市内に戻り、夜中の20時30分から催される“Camille Sledge with the Ken Linh Doky trio”のコンサートを観るために「デンマーク国立博物館」へ行きました。博物館で75分間ものジャズのコンサートなんて、なかなか出来る経験ではないので、始まる前からとにかく興奮していました。

開場時間の30分以上も前に会場に着いてしまったので、近くの川辺のベンチに座り、街の移り変わりを眺めていました。Prinsens Bro(橋)を行き交う車や、自転車に乗って颯爽と過ぎ去って行く人々、橋の下を流れる川と、時折やって来る陽気で小さな観光船、シンプルなウェディングドレスとタキシード姿で撮影を楽しむカップル。異国の地で楽しみを待っている時間は、一つの画面の中にもたくさんのモノに目が留まり、いつも以上に鮮明に見えるのだと思いました。
Copenhagenベンチのすぐ傍で撮ったキレイな石畳の歩道。カラフルでスタイリッシュな自転車が並んでいました。19:30頃に撮ったと思えない明るさです。コペンハーゲンの夏の夜の爽やかさは、サイダーの広告にも負けません。

時間になりコンサート会場へ。アーティストに一番近いところで音楽を感じたかったので、一番前の席に座りました。これが大正解でした。

ピアノはKen Linh Doky、ベースはRomulo Duarte、ドラムはDavid “Fingers” Haynesのトリオ。彼らの指や腕、脚、そして表情の動きをすべて捉えることが出来る距離でした。特にそれぞれのアドリブソロは圧巻。目が離せなくなるのに、大人しく見つめているのではなく、自分の身体も自然と踊り出してしまうのです。

“自然と踊り出す”これは日本で言うところの祭りのお囃子のようであり、それでいて、全く違うものです。ジャズの血が流れていないのに血が疼く。それは、とても不思議で懐かしい感覚でした。

曲はほとんどすべてアレサ・フランクリン。私は彼女の生の歌声を聴いたことがないので、比較することは出来ません。それに、比べることには何の意味もないと思いました。カミール・スレッジが歌うアレサ・フランクリンは、歌うこと、そして生きていることの喜びに満ちあふれていました。そして、たくさんのリスペクトがありました。

“You Make Me Feel Like A Natural Woman”、“Chain of Fools”、“I Say a Little Prayer”などの名曲を演奏。アレサ・フランクリンが奏でる「愛」は、とても強いです。落ち込んだとき、気持ちが負けそうなときに聴くと、前を向いて歩いていく勇気が湧いてきます。私はカミール・スレッジの歌声を聴いて、特に“I Say a Little Prayer”が大好きになりました。

強くて、カッコ良くて、時折切なくなる。そんな一曲です。

コンサートの最後の曲は、“September”でした。身体を揺らし、手拍子を鳴らし、たくさんの拍手と歓声を残して幕を閉じました。『音楽って、ジャズって、こんなに楽しいんだ…こんなに素晴らしいものなんだ…』この旅一番の感動を噛み締めながら、私は『必ずこの場所に戻ってこよう』と誓いました。

カミール・スレッジのインタビュー記事の中に、こんな言葉を見つけました。

I’m part of you, you’re part of me. Let’s help each other breathe.(出典:http://javamagaz.com/?p=371

直訳すると、“私はあなたの一部です。あなたは私の一部です。呼吸することを助け合いましょう。”

これは、家族や大切な人に対してだけでなく、音楽を愛するすべての人に届けられる言葉だと思いました。そして、アレサ・フランクリンにも。カミール・スレッジに対して抱いた、“一人の人間を超えている”という印象の訳が分かった気がしました。

コンサートの曲と曲の間の時間、マイクを持った彼女は、とびっきりの笑顔でこう言いました。
『私のお腹の中には赤ちゃんがいるのよ』
そう、まさに彼女はその時、“一人の人間ではなかった”のです。


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amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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