形を与えること

formgivning

デンマークの建築家ビャルケ・インゲルス氏のスピーチから、デザイン・シンキングを学びます。

1. ブルーノ・ムナーリから「形を与えること」を考える

デンマークのみならず世界で活躍しているビャルケ・インゲルス氏。彼の建築事務所「ビャルケ・インゲルス・グループ(Bjarke Ingels Group)」は、「BIG」の愛称で広く知られています。「TED」で公開されている彼のスピーチ「水上都市やレゴハウスをはじめとする建築の未来の形」を見たのですが、とても興味深い内容でした。

 

まず、結論をまとめた後に、それを体現している彼のプロジェクトについて考えてみたいと思います。

この動画で彼が伝えたいことは、“人間は「未来に形を与えることが出来る」という素晴らしい力を持っている”ということです。では、「未来に形を与える」とは一体何なのか。彼は母国デンマークの会社「LEGO」から「the Home of the Brick(ブロックの家)」のデザインを依頼された時の体験などを元に、下記のように述べられています。(→デンマークのBillundに建設されたレゴの家のプロジェクトはこちら

But the Danish word for design is “formgivning”, which literally means to give form to that which has not yet been given form.
In other words, to give form to the future.
And what I love about LEGO is that LEGO is not a toy.
It’s a tool that empowers the child to build his or her own world, and then to inhabit that world through play and to invite her friends to join her in cohabiting and cocreating that world.
And that is exactly what formgivning is.
As human beings, we have the power to give form to our future.

(デンマーク語のデザインに当たる言葉は「形を与える」という意味があります。まだ形を持たないものに形を与えるということ、つまり、未来に形を与えるということです。
レゴのいいところは、ただのオモチャではなく、道具だということです。
子供達が自分の世界を作り、遊びを通してその世界に生き、友達も誘ってそこで一緒に生き、一緒に作れるようにします。
それこそ、「形を与える」ということです。
人間として、私たちには未来に形を与える力があるんです。)

私はこの言葉を聞いて、真っ先にブルーノ・ムナーリの「ファンタジア」を思い出して、本棚から引っ張り出しました。書籍では「ファンタジア」「発明」「創造力」「想像力」について書かれていますが、「形を与えること」は、この中のどれに該当するだろう、と思いました。

まず、「ファンタジア」は、“何よりも自由な能力で、考えついたことが本当に実現出来るか、機能面はどうするか、などには捉われない”という特徴があります。これは、ビャルケ・インゲルス氏が携わっているプロジェクトに関して言えば、あまり当てはまらないと思います。スタートは「ファンタジア」から始まっているかもしれませんが、プロジェクト自体は実現させなければいけないものですし、機能といった実態の部分も重要です。しかし、子供たちが作り出すレゴの世界は、「ファンタジア」で溢れていると思います。

次に「発明」です。発明はファンタジアと深く関係していますが、決定的に違うのが、“発明したものが実際に動き、何かの役に立つ”ということです。動画の中では、以前本ブログでも少し紹介したことがある、コペンハーゲンの廃棄物発電所とその屋上に作られたスキー場「CopenHill」についても話されています。この廃棄物発電所は、煙突から有害物質が何も出ないという“世界で最もクリーン”な驚くべき技術が用いられており、また、「CopenHill」は、山がないデンマークで唯一スキーを楽しむことが出来るスポットです。これらは大きな発明と言えるでしょう。

三つ目は「創造力」です。創造力は、“ファンタジアのイメージ部分、発明の機能部分だけではなく、心理的、社会的、経済的、人間的側面をも含み持つもの”です。少し難しいですが、「デザインすること」は、最も創造力を要するものであると思います。

前述の「CopenHill」を例に挙げてみると、「廃棄物発電所」と「スキー場」という機能の部分では発明ですが、それらがデザインされていなければ、廃棄物発電所はその素晴らしい技術が人々に認識されず、ただ従来の先入観に捉われた威圧感を与えるだけの存在になってしまうと思いますし、スキー場は誰にも使われず無用の長物となってしまう可能性だってあります。「ファンタジア」と「発明」だけでは世の中は良くならない、やはり、創造力を用いた「デザイン・シンキング」の重要性を改めて感じます。

最後は「想像力」です。これが一番分かりやすいと思うのですが、“ファンタジア、発明、創造力によって考え出されたことを目に見えるようにする手段”のことです。例えば、デッサンしたり、模型を作ったり、映像を作ったりすることですね。レゴもまさに、視覚化する手段の一つであると言えます。

つまり、「形を与えること」は創造力と想像力、どちらのことでもあると言えるでしょう。しかし、「未来に形を与える」となると、ファンタジアも必要になってくると思います。なぜなら未来は、予想だにしないようなことがたくさん起こります。何よりも自由に、柔軟に考えることが出来る若い力は、大切にしていかなければいけないですね。

2. ビャルケ・インゲルス氏が手掛けた建築プロジェクト

動画内で登場するビャルケ・インゲルス氏の建築プロジェクトの中で、気になったものを一部ご紹介します。中には単なる「建築プロジェクト」とは呼べない壮大なものもあります。

Dortheavej Residence (Social Housing)

レゴからインスパイされてデザインされたコペンハーゲンの公営住宅です。こちらのサイトにたくさん写真が掲載されているので、ぜひ見てみてください!日本人の感覚だと「これが公営住宅!?」と思ってしまうようなデザイン性に富んだ建物です。木のブロックが積み重ねられていて、ブロックの間に間隔を開けて、バルコニー部分が作られています。たっぷり採光出来そうな大きな窓、ちょうど良い広さのバルコニー、そして外観とインテリアの両者から木の温もりが感じられます。

財源がないのでなかなか難しいと思いますが、少子高齢化に悩む日本の地方自治体にも、こういった優れた公営住宅が建てられれば、移住者が増えるのではないかなと思いました。「住まいの魅力」は「地域の魅力」に直結します。

Oceanix City

最も興味を持ったのが、水上都市のプロジェクトです。公式サイトの情報はこちらから。

スピーチでビャルケ・インゲルス氏は、下記のように述べられています。

In fact, by 2050, 90% of the major cities in the world are going to be dealing with rising seas.(中略)
So we thought, could we actually imagine a floating city designed to incorporate all of the Sustainable Development Goals of the United Nations into a whole new human-made ecosystem.(中略)
And even if the whole world woke up tomorrow and became carbon-neutral over night, there are still island nations that are destined to sink in the seas, unless we also develop alternate forms of floating human habitats.

(2050年までには世界の主要都市の9割は、海面上昇への対処をすることになります。(中略)
それで、海上都市を作れないかと考えました。国連の持続可能な開発目標を全て取り入れた、全く新しい人工の生態系を持つような海上都市です。(中略)
世界が明日目覚めると、一夜にしてカーボン・ニュートラルになっていたとしても、水上の居住地を開発しない限り、海に沈む運命にある島国があります。)

ビャルケ・インゲルス氏がデザインした水上都市の主な特徴は、下記の通りです。

  1. 自前で発電する(潮流、波力、風力、太陽光、太陽熱等を利用)
  2. 人工の群島に振る雨水を全て集める(有機的、機械的に処理して貯蔵して浄水)
  3. 食べ物も自給する(魚と野菜が基本で、農業が行える)
  4. ゴミ処理も全て行う(堆肥化やリサイクルエネルギーへの変換)

現在、水上都市を作る最初の場所として考えられているのが、「Pearl River Delta(珠江デルタ)」だそうです。日本の未来、そして、世界の未来は一体どうなっているのでしょうか。変わり続ける気候や情勢に対して、私たちは恐れることなく、形を与え続けていかなければいけないでしょう。

最後に、ビャルケ・インゲルス氏がコペンハーゲンのオススメの建築について話している動画をシェアして終わりたいと思います。

ルイジアナ近代美術館」は私も大好きです。建築、アート、自然、この中に好きなものが一つでもあれば、訪れて損はない最高の場所です。


※本記事のアイキャッチ画像は、「Unsplash」を使用しています。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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