サスティナブルなアートの世界

オラファー・エリアソン

暗闇の中に、虹が現れた。
虹を見るのはいつも、太陽に照らされた雨上がりの明るい空だった。
そうだ。暗い場所にだって、虹は出来るのだ。
そこに光があれば、新しい光を生み出すことが出来るのだ。


先日、東京都現代美術館に「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」を観に行ってきました。元々3月から始まる予定でしたが、新型コロナウィルス感染症の拡大防止の観点から臨時休館していたため、会期が延期及び延長となっていました。ずっと楽しみに待っていたので、6月になって国の緊急事態宣言解除され、やっと訪れることが出来て嬉しい限りです。

オラファー・エリアソンオラファー・エリアソンは、アイスランド系のデンマーク人アーティストで、“アートを介してサスティナブルな世界を実現すること”を目指して活動をされています。

『サスティナブルな世界とは何だろう?』私も最近、デンマークや建築、再生可能エネルギーのことについて学ぶ機会が多々あったのですが、その際「サスティナビリティ(持続可能性)」について色々と考えました。(→「ロラン島と暮らしのデザイン」などブログにも書いています。)

日々の暮らしにおいて実践出来る「サスティナビリティ」は色々とありますが、大きな気候変動の流れに対応するためにも、国、地域社会、会社、仕事のプロジェクト、コミュニティなど、まとまった枠組みの中に、各々が個人単位で実現したサスティナブルな視点を共有していくことが必要になってくると私は考えています。

そして、新しいものを創造するアーティストが発信するアートを介したメッセージを受け取ることは、とても重要なヒントとなるのではないかと思います。


上の動画は、「アートをエコロジーの視点で見直すこと」をテーマにしたオラファー・エリアソンの2019年の講演です。この中でエリアソンは、“身体的な関与から得られた実感や個人的な記憶や体験こそが、実際の行動に繋がっていく”と述べられています。それは、彼の作品を観て体感してみると、よく理解出来ると思いました。

あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること(2020)

オラファー・エリアソン展示室には床に置かれたライトだけ。自分や第三者がライトの前に立つと壁に複数の影が投映し出され、人の位置や動きに合わせて影も変化します。「あなたが動いているときにだけ物事が見える」とエリアソンが言うように、「行動すること」や「変化を起こすこと」の大切さを鑑賞者に教えてくれます。

また、「変化」に着目した作品を他にも制作されています。それを見ていきましょう。

ときに川は橋となる(2020)

オラファー・エリアソン本展覧会のための新作で、タイトルにもなっている作品。暗幕で囲われた空間の中に、水が張られた大きなシャーレが中心に配されています。そして、12のスポットライトでそれが照らされ、水面が揺れることによって、頭上のスクリーンにそのさざなみのイメージが投影されます。自然の流動性や移ろいを体感でき、『その変化に私たちはどう向き合っていくべきか?』ということを考えさせられます。

エリアソンの作品においては「自然の力を生かす」ことも、とても重要なポイントとなっています。

太陽の中心への探査(2017)

オラファー・エリアソンガラスで出来た美しい幾何学の多面体。この作品の光と動きは、ソーラーエネルギーが生み出しているそうです。地球に必要不可欠な太陽光、そしてそれを生かした自然エネルギーの可能性が感じられます。

アートも含むものづくり全般(製造や輸送など)に必ず付いて回る問題が、エネルギーの使用に伴う二酸化炭素の排出です。エリアソンはその問題を提起するようなアート作品を作り上げています。

クリティカルゾーンの記憶(ドイツーポーランドーロシアー中国ー日本)(2020)

オラファー・エリアソン本展覧会で展示されている作品の多くは、二酸化炭素を多く排出する航空機ではなく、ドイツはベルリンから日本まで、鉄道と船によって運ばれているそうです。そしてこの作品の円形のドローイングは、人間が描いたものではなく、輸送中の動きや揺れを記録する装置によって描かれています。「移動によって生じる無数の変化」を視覚的に感じ取ることが出来る作品です。

エリアソンによる“アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試み”が少しずつ明らかになってきました。

サスティナビリティの研究室

オラファー・エリアソンベルリンにある「スタジオ・オラファー・エリアソン」では、日々様々な実験とリサーチが行われているそうです。例えば、写真は水彩画の顔料なのですが、玉ねぎやにんじんの皮と言った野菜くずから作られています。オラファー・エリアソンそして、その顔料を使用して描かれた水彩画です。市販されている絵の具とは一味違った風合いが、とても魅力的に感じられました。
オラファー・エリアソンこちらは、おがくず、3Dプリントの支持構造、真鍮の削くず、ゴム手袋といった作品を制作する過程で生まれる廃棄物を、新しい素材に作り変えたものです。「普段捨ててしまうようなものに新たな命を吹き込む」というその創造性に、無限の可能性と希望を感じました。

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」で観ることが出来た作品の一部を紹介しました。エリアソンは本展覧会について、下記のように述べられているそうです。

〈ときに川は橋となる〉というのは、まだ明確になっていないことや目に見えないものが、たしかに見えるようになるという物事の見方の根本的なシフトを意味しています。地球環境の急激かつ不可逆的な変化に直面している私たちは、今すぐ、生きるためのシステムをデザインし直し、未来を再設計しなくてはなりません。そのためには、あらゆるものに対する私たちの眼差しを根本的に再考する必要があります。私たちはこれまでずっと、過去に基づいて現在を構築してきました。私たちは今、未来が求めるものにしたがって現在を形づくらなければなりません。伝統的な進歩史観を考え直すためのきっかけになること、それがこうした視点のシフトの可能性なのです。(東京都現代美術館WEBサイトより)

「生きるためのシステムをデザインし直し、未来を再設計する」というメッセージ。それは、ゼロからの再スタートではなく、「今あるものを生かすこと」「本当は今すぐ実践出来ることをやってみること」ではないかと思うのです。さながら暗闇の中に、虹を生み出すことが出来るように。

本展覧会は始まったばかりです。ぜひ足を運んで「サスティナブルなアートの世界」に触れてみてはいかがでしょうか。


「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」
会期:2020年6月9日(火)- 9月27日(日)
会場:東京都現代美術館

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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