永遠に続く、ジャズの夢

真夏の夜のジャズ

7月の最終日の夜、初めて訪れた横浜のミニシアターで、ジャズを聴いた。アメリカの北東に位置するロードアイランド州のニューポートで毎年8月に開催される「ニューポート・ジャズフェスティバル(Newport Jazz Festival)」をドキュメント化した映画『真夏の夜のジャズ』だ。


この映画を今観ておこうと思ったのは、読んでいた『新書で入門 ジャズの歴史』という本に登場したからだ。ジャズの勉強をしているのは、ただ単にジャズを聴くのが好きだからというのと、30歳になってから趣味として始めたジャズドラムの練習に、少しでも役立てたいと思ったからだ。鑑賞するのも演奏するのも、知識はその面白さにより深みを与えてくれると思う。

『新書で入門 ジャズの歴史』の第8章「JATPとニューポート・ジャズ・フェスティヴァル」に、『真夏の夜のジャズ』は登場する。(JATPは「ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック」の略)

ジャズ・フォトグラファーとして有名なバート・スターンのカメラ・ワークが美しい『真夏の夜のジャズ』は、1958年に行なわれた第5回を記録したもの。ウェストコーストを代表するジミー・ジュフリー・スリーにはじまって、セロニアス・モンク以下諸々のモダン・ジャズにルイ・アームストロング、さらにはゴスペル・シンガーのマヘリア・ジャクスンからチャック・ペリーのロックンロールまで登場する顔触れの多彩さ。そして避暑地という場所柄もあるのでしょう、客席の年齢層が意外に高いことに、アメリカでのジャズの受け入れられ方の一端を見た気にさせられます。

1950年代はモダンジャズの黄金期。その時代の雰囲気をリアルに味わえそうだと思い、とても興味を持った。ネットで調べていると、ちょうど4K版の上映をミニシアターで行っているとのこと。実は昨年の夏に公開していたのは知っていたのだが、後回しにしているうちに見逃していたのだ。今回は見逃すまい。

YouTubeにアップされている予告編。音楽や映像のカッコ良さも期待が膨らむが、「永遠に続く夢をお見せしましょう」というキャッチコピーに惹かれた。

訪れたのは「横浜シネマリン」という老舗のミニシアターで、JR関内駅から徒歩5分ほどのところにある。上映開始が20:30からなので20時頃に駅に着いたのだが、近くの商店街の人通りはまばらで、映画館の周囲には風俗店が複数あり、独特の雰囲気を醸し出していた。
横浜シネマリン「横浜シネマリン」の当日のラインアップはこちら。『真夏の夜のジャズ』は一番遅い時間の上映だった。左隣の『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』も気になるところ。アレサ・フランクリンと言えば、「コペンハーゲン・ジャズ・フェスティバル」で聴いたカミール・スレッジの歌声も思い出す。(→デンマーク旅行(5)クイーン・オブ・ソウルに憧れて)あの時のステージ開始時間も20:30だったのか。今日聴くのはアレサ・フランクリンではないが、20:30という時間には音楽の魔法がかかりやすいのかもしれない、と思った。

映画が始まり、その魔法はすぐにかかった。映像は4K版ということもあり、60年以上前のものとは思えないほど美しい。演奏者の息遣いまで伝わってくるようだ。そして、演奏者だけでなくフェスティバルの観客の反応や表情が多く抜かれているのが興味深かった。分かりやすく音楽を楽しんでいそうな観客もいれば、「この人はどんなことを考えているんだろう?」と思うような表情の者もおり、十人十色だ。

映画鑑賞後に、セットリストを調べた。知らなかったミュージシャンや曲もあったので、新たな発見やお気に入りが見つかった。

Jimmy Giuffre Three(ジミー・ジュフリー・スリー)
「Train and The River(トレイン・アンド・ザ・リヴァー)」
Thelonious Monk(セロニアス・モンク)
「Blue Monk(ブルー・モンク)」
Sonny Stitt(ソニー・スティット)
「Blues(ブルース)」
Anita O’day(アニタ・オデイ)
「Sweet Georgia Brown(スウィート・ジョージア・ブラウン)」
「Tea For Two(二人でお茶を)」
George Shearing Quintet(ジョージ・シアリング・クインテット)
「Rondo(ロンド)」
Dinah Washington(ダイナ・ワシントン)
「All Of Me(オール・オブ・ミー)」
Gerry Mulligan Quartet(ジェリー・マリガン・カルテット)
「As Catch Can(アズ・キャッチ・キャン)」
Big Maybelle Smith(ビッグ・メイベル・スミス)
「I Ain’t Mad At You(アイ・エイント・マッド・アット・ユー)」
Chuck Berry(チャック・ベリー)
「Sweet Little Sixteen(スウィート・リトル・シックスティーン)」
Chico Hamilton Quintet(チコ・ハミルトン・クインテット)
「Blue Sands(ブルー・サンズ)」
Louis Armstrong & All Stars(ルイ・アームストロング・オール・スターズ)
「Lazy River(レイジー・リヴァー)」
「Tiger Rag(タイガー・ラグ)」
Louis Armstrong & Jack Teagarden(ルイ・アームストロング&ジャック・ティーガーデン)
「Rockin’ Chair(ロッキン・チェア)」
Louis Armstrong & All Stars(ルイ・アームストロング・オール・スターズ)
「When The Saints Go Marchin’ In(聖者の行進)」
Mahalia Jackson(マヘリア・ジャクソン)
「Shout All Over(神の国を歩もう)」
「Didn’t It Rain(雨が降ったよ)」
「Lord’s Prayer(主の祈り)」

私がこの中で一番印象的だったのは、アニタ・オデイの「Tea For Two(二人でお茶を)」と、ルイ・アームストロング・オール・スターズ「Tiger Rag(タイガー・ラグ)」だ。

まず、「Tea For Two(二人でお茶を)」は、アニタ・オデイの歌っている姿がとてもカッコいいし、観客の音楽にのっている反応もジャズを楽しんでいるのが伝わってきて、心踊る映像だった。フェスティバルにぴったりの選曲だと思う。そして、調べたところ歌詞に「Don’t let it abide in my dreams.(それを私の夢で終わらせないで)」(「それ」というのは二人で幸せに暮らすこと)とあるのだが、この映画のキャッチコピー「永遠に続く夢をお見せしましょう」にリンクすると思った。

次に、「Tiger Rag(タイガー・ラグ)」だ。

ジャズのスタンダード・ナンバーで、1917年にオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドによって最初に録音され、著作権登録された曲。ジャズの楽曲の中でも、最も多くの録音を生み出した曲のひとつである。(Wikipedia

初めて録音される以前から多数のミュージシャンによって演奏されており、かつ多数のカバーが残されている楽曲だそう。まさにジャズの「THE スタンダード・ナンバー」と言えるだろう。ルイ・アームストロングはもちろんだが、スクリーンの中でバンドメンバーが“暴れて”いるのが最高だ。黒人白人に入り混じって、一人アジア系のドラマーのDanny Barcelona(ダニー・バルセロナ)にも目を奪われた。

深夜の22時に上映が終わり、余韻に浸りながら帰宅。家に着く頃には23時を過ぎていた。そのまま眠りにつくと、夢の中でも映画の世界を堪能できる。永遠に続く、ジャズの夢だ。『真夏の夜のジャズ 4K』のBlu-rayが発売されたことにより、映画館で上映される機会は今後少なくなるかもしれないが、出来ることなら来年の夏も同じ夢を観たい。そしていつか、現実の世界で夢の続きを観てみたいと思った。

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

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