日本の影響を受けたデンマーク建築

Enriched Simplicity 日本の様式に影響を受けたデンマーク建築

先月、デンマーク王国大使館主催の「Enriched Simplicity 日本の様式に影響を受けたデンマーク建築」展に行ってきました。イベント自体は既に終了していますが、そちらで紹介されていたデンマーク建築とテーマについて、ご紹介したいと思います。

1. どのように日本から影響を受けたのか?

デンマーク建築が、どのように日本から影響を受けたのか。それを伝えるのが本展のテーマでした。テーマの詳細については、下記のように説明されていました。

Danish architecture and design is strongly influenced by the Japanese tradition and the inspiration from Japan is both indirect and direct. Single-family houses designed by American architects with inspiration from traditional Japanese architecture, became in the 1950’s a very important inspiration for a young generation of Danish architects.

デンマークの建築とデザインは日本の伝統に強く影響されており、日本からのインスピレーションは、間接的なものと直接的なものの両方があります。日本の伝統的な建築から影響を受けたアメリカの建築家によってデザインされた一軒家は、1950年代に、デンマークの若い世代の建築家にとても重要な影響をもたらしました。

What they saw and what they later designed themselves, were refined houses in delicate constructions with open plans and fine proportions, where glass from floor to ceiling connected the indoor and the outdoor spaces.

彼らが見たものと、彼らが後に自らデザインした作品は、床から天井までのガラスが屋内と屋外の空間を繋ぎ、オープンプランと細かいプロポーションを備えた繊細な構造の洗練された家でした。

Gone was the lump like foundation-walled houses and gone was the white cubism of functionalism. And buildings, large and small, became elegant structures inspired by growth principles and variation through addition.

構造壁の家のようなしこりがなくなり、構造主義の白いキュービズムがなくなりました。そして、大小を問わず、建物は成長の原則と追加による変化に触発されたエレガントな構造になりました。

The inspiration from Japan came both from the American role models like Frank Lloyd Wright and Charles Eames and directly from the Japanese sources that comprises both the traditional Japanese architecture like the Katsura Imperial Villa and its contemporary protagonists like Kenzo Tange.

日本からの影響は、フランク・ロイド・ライトチャールズ・イームズなどのアメリカの偉人から間接的に受けたものと、桂離宮などの日本の伝統建築や、丹下健三のような現代の主役の両者から成る直接的な日本の源から受けたものがあります。

Enriched simplification and clarification of ideas, well-cultivated details and mastery of material aesthetics are Japanese values that yet again are seen in the works of the best contemporary Danish designers.

アイディアの豊かな簡素化と明確化、よく練られた細部と素材の美学の習得は、現代のデンマークの最高のデザイナーたちの作品に再び見られる日本の価値観なのです。

Japanese influx on Danish Architecture & Design 1950-2020, Royal Danish Embassy in Japan Tokyo 2021

間接的または直接的に、日本から影響を受けて醸成された価値観である「Enriched Simplicity豊かなシンプル)」について考えを深めるきっかけになりました。本展の中で紹介されていたデンマークの建築家と作品を元に、紐解いてみたいと思います。

2. アメリカからのインスピレーション

前述の引用文にもあるように、デンマーク建築はアメリカを解して間接的に日本の影響を受けています。Erik Christian Sørensen(エリック・クリスチャン・ソーレンセン)が1955年に設計した一軒家に関するパンフレットには、さらに詳しく説明されていました。

In the years after the Second World War, a number of the houses built on the east and west coasts of America can be seen as continuations and interpretations of Mies van der Rohe’s ideas.
With inspiration from traditional Japanese architecture, among others architects Walter Gropius, Charles & Ray Eames and Marcel Breuer designed elegant and refined buildings, in which open plans with slender structures and fine proportions dissolved the divide between the rooms, and in which glass from floor to ceiling brought together outdoor and indoor spaces.

第二次世界大戦後の数年間、アメリカの東海岸と西海岸に建てられた多くの家屋は、ミース・ファン・デル・ローエのアイディアの続きと解釈として見ることができます。
建築家のヴァルター・グロピウス、チャールズ・イームズ、マルセル・ブロイヤーなど、日本の伝統的な建築からインスピレーションを得て、エレガントで洗練された建物を設計しました。
それらの建物は、細身の構造と細かなプロポーションを備えたオープンプランが部屋の仕切りを解消し、床から天井までのガラスが屋外と屋内の空間を融合させています。

Erik Christian Sørensen’s own house Published by Realdania By & Byg

「仕切りがなくオープンで、内と外が混ざり合っている」というところが特徴であると思います。この特徴は、Erik Christian Sørensen以外のデンマークの建築家にも当てはまるところがあります。

3. ルイジアナ近代美術館との出会い

本展でも紹介されていたのですが、「仕切りがなくオープンで、内と外が混ざり合っている」ということにおいて、私はまず「ルイジアナ近代美術館」を思い出しました。Jørgen Bo(ヨルゲン・ボー)とWilhelm Wohlert(ヴィルヘルム・ウォラート)の二人の建築家によって、1958年に設計された美術館で、約3年前に自分自身も実際に訪れたことのある場所です。

「美術館」に対しては、重厚な箱の中に作品が大事に収められた厳格な場所、といった印象を持っている方は多いと思います。それはどちらかと言うと、クローズドなイメージです。しかし、ルイジアナ近代美術館は、良い意味でそのイメージを覆してくれるでしょう。

ルイジアナ近代美術館

写真のように「ルイジアナ近代美術館」は、館内と庭園の通路の境目を感じず、スムーズに行き来することが出来ます。このおかげで館内に籠って鑑賞することへのストレスがなくなり、「滞在する」といった点においても、非常に満足度の高い時間を過ごせました。

開館当初は3つのパビリオンのみがガラス張りの廊下で結ばれていましたが、後に講堂や新しいギャラリーなどが拡張され、優美なエントランスビルディングは海岸まで広がっています。初めから完璧なものとして誕生したのではなく、まるで生き物のような、呼吸をしているかのような、有機的な精神性を感じます。

4. 細部と素材の美学

「細部と素材の美学」を感じられる作品として、Erik Korshagen(エリック・コルシャゲン)が1960年に設計した私邸が挙げられます。特徴は全体が細い木で作られているということと、自然の中に溶け込む茅葺き屋根、そして、全ての部屋(内部空間)に外からアクセス可能な設計です。

写真はこちらのサイト(→Erik Korshagen Korshagehus 1960)から見られますが、日本的な「侘び寂び」の美意識を感じます。茅葺き屋根は日本特有のものではありませんが、2020年に日本の「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」(茅葺きを含む)が、ユネスコ無形文化遺産に登録されており、日本の伝統として大切にされてきたものです。

本展で紹介されていた作品を通して、「Enriched Simplicity豊かなシンプル)」とは、シンプルに存在しているように見えて、実は広くて深い繋がりを多方面に持っている、ということなのではないかと思いました。日本とデンマークの繋がりはもちろん、内と外の繋がり、素材と自然の繋がり、そして自然と人間の繋がりなど、デザイナーの細やかな気遣いと息遣いが感じられました。

それは「無駄を排除する」とか「機能を追求する」とか、そういう合理的な価値観の「シンプルさ」とは異なるものです。「豊かなシンプル」には、血の通った温もりがあるのだろうと思います。


【関連記事】
デンマーク旅行(2)ルイジアナ近代美術館
デンマークの現代住宅

amiko
編集者、デザイナー、宣伝のお仕事などを経験。現在は「デザインライター」として活動中。プログラマーとしてもお仕事をしています。好きなことは、読書、音楽(主にジャズ)、旅行。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください